エピローグ それぞれの交差点②
目を開けると、そこには知っている天井――のはずであった。
それが目に入るよりも先に、エルトナ大陸の稲荷寿司を思わせるような毛色のプクリポの顔がすぐ近くで覗き込んでいた。
「あっ、おはようセバス! 調子はどう?」
プクリポリタウンの自室で目覚めると同時に、セバスがサッと上着を羽織り、主であるクロムへ恭しく一礼する。
「ご心配をおかけしました、クロム様。おかげ様でこの通り、もう何の心配もございません」
先の戦いでは魔装によるMP消費こそ激しかったものの、肉体の重篤な負傷にまでは至っておらず、一晩ぐっすり休んだセバスの心身はほぼ完全に近い回復を見せていた。
むしろ直接的なダメージで言えば、巨獣ウングラの強大な出力をまともに食らったゼーエンやメギウス、そして幻魔のダメージフィードバックをもろに受けているシキョウの方が遥かに大きい――彼らの身を案じつつ、金縁眼鏡を装着したセバスがクールな微笑を足元のクロムへキラリと向けてみせる。
「よかった〜! しばらくは無理せず、ゆっくり休んでね!」
「いえ、早速いつも通りにやらせていただきます。クロム様や働く皆様には、随分とご心配をおかけしてしまいましたからね」
言うが早いが掃除や洗濯に食事の下ごしらえなど、もはや執事という名の何でも屋とでもいうべき働きを見せるセバス。こうして働いていると、やはり自分の居場所はここだと実感せずにはいられない。
やがて溜まっていた仕事にも区切りがつき、一息ついていたセバスの脳裏に生まれた隙間に浮かぶのは、袂を分かってから数年ぶりに肩を並べて戦った機甲戦団ガイデスのことであった。
(ウングラが斃され、マスター・メギウスが本懐を遂げられた今、機甲戦団ガイデスは何かが変わるのかもしれない)
故郷を滅ぼされた復讐、そして同じ悲劇を二度と繰り返さないためにも、ウェナ諸島の平和を圧倒的な力で守り抜く――その理念そのものはセバスも知るところであり、平和を守るという一点において、その志は同じであった。
(かつて生死を彷徨うほどの重傷を負い、過去の記憶を失った私を救ってくださったマスター・メギウスの恩義に報いるためにも、私は共に戦うことを決意した……そう、そのはずでした)
魔物商人の軍勢を始め、ウェナの平和を脅かす存在に対して一切の容赦を見せず、制圧のためなら如何なる犠牲も厭わないメギウスのやり方は徐々に両者との間に軋轢を生み出し、やがてセバスが離反するまでに至ったことは、今に至るまで忘れたことはない。
(だが……執事として、私はマスター・メギウスの軌道を修正することができたのではないか? それを果たさずに逃げた私が、戦団を一方的に悪と断ずることなどできようはずもなかった)
命の恩人に背を向けたことを苦悩するセバスだが、そこから救ってくれたのは、新たなる恩人――クロムであった。
(心を救われ、自らの正義と向き合うことで、私は新たな命を――そう、ウェナブルーとして生まれ変われたのです)
今の主はクロムただ一人であり、再びメギウスの執事となることはあり得ない。だが復讐という枷から解き放たれたかつての主が、再びウェナを守るために巨大な敵と戦う時が来るのであれば、その時、きっと自分は力を貸すことになるだろう。
アズール・プルミエからウェナブルーとなった自分がこれから歩み続ける道が、もしかしたらまたメギウスの邁進する道と交わることがあるのかもしれない――予感めいた思いを胸に抱き、セバスは再び立ち上がるのであった。
〜エピローグ それぞれの交差点③へ続く〜