エピローグ それぞれの交差点③
セバスと同時刻――上半身に巻かれた包帯が痛々しいメギウスもまた、見慣れた場所で目覚めていた。
ゴシック調の黒いダブルベッドから身を起こすと、窓から差し込む光の眩しさに思わず眉間をしかめてしまう。同じくゴシック調の円形のテーブルにはティーセットが置かれており、整頓された本棚からも、メギウスは現在地が魔導戦艦バルデアス内――エリミリア専用の船室であると理解していた。
彼が勝手知ったる様子で開いたゴシック調のタンスにはご丁寧に新品の黒いスリーピーススーツが掛けられており、迷うことなくそれに袖を通す。――そこへ、
「ああ、起きたのね。思ったよりも早かったじゃない」
背後からの声に振り返ると、頭にタオルを巻いた黒いバスローブ姿でバスルームから出てきたエリミリアが事もなげに鏡台の前に座り、湯上がりで火照った顔の手入れを始めようとしていた。
「これはこれは先生、救出していただきありがとうございます。ゼーエンさん達もバルデアスに?」
「ん〜そうね、安静にしてると思うよ。それより感謝してよね? 君達の回復のために、わざわざ私のパーティーメンバーまで呼んできたんだから」
エリミリアのバスローブの陰から、茶色いくまの被り物をしたプクリポの少女がにゅっと顔を出す。トコトコとメギウスへ歩み寄りながら、
「おーあんた起きたんやな、ベホイムしたったからな。ほんならまじょせんせい、あたいはお家へ帰るでな」
「はぁい、るーみー先生ありがとうね〜♪ 今度ケーキ買ってあげるからね!」
「約束やで〜、ほんならな〜」
そのまま部屋のドアを開けて出ていってしまったるーみーを思わず見送ってしまったメギウスが、彼にしては珍しく少し慌てた様子でエリミリアへと向き直る。
「帰る……と仰っていましたが、海上にあるこのバルデアスから、お一人でどうやって?」
間違いなくここはバルデアスにあるエリミリアの船室であり、自身も幾度となく出入りしている場所であるはずだが、魔女は「何言ってんの?」といった顔で生徒を見やりながら、
「――バルデアス? ここが? ドア開けてみたら?」
言われるがままにメギウスがドアを開けると、そこは見慣れたバルデアス内の廊下――ではなく、全く知らない大広間であった。
中央のテーブルには豪華な料理が湯気を立てており、カウンターキッチンや観葉植物が置かれているような、およそ見覚えなどあるはずもない空間を前に、しばし言葉を失うメギウス。いつの間にか普段の魔女服に着替えていたエリミリアが、得意気な表情であり得ない空間の正体を案内する。
「絵本の中の魔女の館〈黄昏のグリモワール〉へようこそ、メギウス。――さ、もっかい部屋に戻ってくれる?」
半ば呆然としているメギウスを自分の部屋へ押し込み、後ろ手でドアを閉めるエリミリア。ガチャリと音を立てて閉まったことを確認した後で、
「チャンネル変えたから、もっかい開けてみ?」
もはや無言でドアを開けるメギウスだが、今度は勝手知ったるバルデアスの廊下が続いている光景を確認し、無表情でバタンと閉め直すのであった。
「……ええ、おかげ様で少し理解できましたよ。先生は次元の歪みを利用して、バルデアスの船室をご自身の館に『連結』していたのですね」
「その通りよ、いつまでも灰色の港町に隠れてられないからね。ちゃんと拠点を準備しつつ、部屋だけ共用にさせてもらっていたわ」
部屋のゴシックテーブルで紅茶を淹れながら、エリミリアが少しため息をつく。一口飲んだ後でティーカップを置き、彼女は妖艶な笑みを浮かべながらメギウスに告げた。
「私が何処から理力の杖やブルーメタルを調達してきたのか、ずっと気になっていたんでしょう? 教えて分かるものじゃないって言ってきたと思うけど、今のでほんの少しだけ、理解できたんじゃない?」
――メギウスの探求の旅は、これから始まるのだ。
〜エピローグ それぞれの交差点④へ続く〜