エピローグ それぞれの交差点④
――時を経る前の兄弟の話を、少しだけ。
「……見事だな、ゼーエン。やはりセンスが違う」
爪を下ろしたゼーエン少年の前でレイピアを片手に膝をつくのは、体格で弟に勝る兄のレゼールであった。
「ふん、当然の結果だぜ! 兄貴の動きは見切った!」
「ハハッ、これは手厳しいな……。さて、そろそろ父上に薬をお持ちせねばな。最近はあまり経過が優れられないとのことだからな、お前もあまり心配をかけるなよ」
レイピアを鞘に納めたレゼールが、マントを翻してその場を立ち去る。兄との稽古に勝利し得意気なゼーエンではあったが、最近の兄からはあしらわれているというか、どうにも必死さが感じられないとも思っていた。
かつてレゼールがアラハギーロ留学から戻った後、程なく魔法戦士の父が病に伏したことから、兄は亡き母に代わって父の看病を余儀なくされていた。少年時代のゼーエンは勉学と看病を両立する兄の姿を見てはいたものの、所詮は戦闘で自分に勝てない兄のことなど、さして気にも留めていなかった。
(魔法戦士団への入団が確実と言われている兄貴ですら、この俺には敵わない。戦闘なんて、所詮は圧倒的な力と勢いがある方が勝って当たり前なんだよ!)
ふと、エリート街道を歩む兄がああもあっさり負けるはずがない、あえて手を抜いているのでは……と思ったりもしたが、自分の勝利は一度や二度ではないと、少年は即座にその考えを打ち消す。
とはいえ、あまり兄にばかり家事や父の世話を任せるのも気が引けるとの思いから、たまには手伝うかと自宅へ戻ろうとするのであった。
(兄貴が持ち帰ったアラハギーロの秘薬とやらが、親父に効けばいいんだがな……ま、今夜は洗い物でも手伝ってやるか)
――その父も既に亡くなっており、今や兄をも喪ったゼーエン。魔導戦艦バルデアスの船室で傷ついた体を横たえ、今はただ眠り続ける彼が家族の夢から目覚めるまで、今しばらくの時間を必要としていた。
〜エピローグ それぞれの交差点⑤へ続く〜