エピローグ それぞれの交差点⑤
その荘厳なる古い屋敷は、ヴェリナード領西――クエド丘陵西端の岬に、ひっそりと佇んでいた。
主が座する間において、二名の剣士――いずれも二刀流のバトルマスターである人間の男性とエルフの女性が、今まさに主への報告を終えようとしている場面であった。
「――以上、機甲戦団ガイデスは当代のウングラを討ち取ったようです。また、アラハギーロ王国から通達のあった国際指名手配犯、ルークとレーナの両名も戦団の手に落ちたことを確認しました」
首筋までの金髪にファッショングラス、黒いファーをあしらった白いロングコートの人間男性が一礼を伴い報告を締めくくる。それに続き、白縹色の髪を後頭部でふわりと結んだエルフ女性が、同色の和服にも似た武闘着の広い袖口で上品に口元を押さえながら、
「要は魔物商人など、ジンオウ如きで務まった外様の機甲戦団程度で十分……私達〈グランクラーゴン〉本隊が出る必要すらなかったというわけですね、侯爵閣下」
豪奢な玉座で肘をつきながら一連の報告に耳を傾けていた侯爵――〈剣魔神帝〉ディルゲニアが、眼前の剣士達へ静かに語りかける。
「うむ……カペーロ、ビャクラン、ご苦労であった。彼ら機甲戦団には相当な金額を出資しているのでね、貴公らのような我が直弟子が出ずとも、相応の働きはして貰わねばならぬというわけだ。それに――」
一息ついた侯爵が、明らかに戦団を見下した様子のエルフ女性、弟子であるビャクランへ凍りつくような視線を送りながら、
「私が戦団出資者として今回採用を決めた、アーシュラ君……だったかな? 彼女には貴公も敵わなかったと記憶しているがね。ジンオウの二の舞になりたくなければ、今後も精進を怠らぬことだな」
「……はっ、面目次第もございません」
氷柱を背筋に入れられたかのような冷徹さを前に、ビャクランが跪いて頭を垂れる。その奥歯はギリッと軋んでおり、かつて自分に土をつけた女への憎しみを噛み締めているようであった。
「メギウスの目的である当代ウングラ討伐は達成されましたが、今後の戦団の処遇は如何いたしますか」
ファッショングラスで目の色こそ定かではないものの、こちらは顔色一つ変えていないカペーロが主である侯爵へ伺いを立てる。
「これまでと変える必要はない。引き続きウェナに仇なす者共の制圧を任せ、技術面ではエリミリア君にサポートを継続してもらうつもりだ」
自らの手によって、全てにおいて最強たるウェナ諸島を築き上げる――ディルゲニア侯爵の目的は一貫しており、機甲戦団ガイデスの出資者としての顔もその一面に過ぎない。
最強の剣士である自らが育て上げた高弟達を本隊〈グランクラーゴン〉として手元に置きつつ、外部組織としての機甲戦団を遊軍として各地で戦わせる。例えその相手が他国であろうとも、ウェナの敵となるのであれば例外なく叩き潰すのみ。
――ディルゲニア侯爵の思惑は、既に次なる標的へ移らんとしていた。
〜エピローグ それぞれの交差点⑥へ続く〜