エピローグ それぞれの交差点⑧
「Bブロック二回戦――勝者、レミエル!」
新しいファッショングラス姿で勝ち名乗りを受けたレミエルが、愛用のギターをかき鳴らしながら勝利のシャウトで歓声を浴びる。その足元には、ドラゴンクロー絶を装備した黒い毛皮のケープ姿の魔物使い――レーナが無様に倒れ伏していた。
「よー、ピンク頭のお姉さん。あんた、グラディエーター枠での参戦なんだって?」
しゃがみ込んで見下ろすレミエルの声に、体をプルプルと震わせながら顔を上げるレーナ。その首元は以前見られなかった、黄色い宝石が埋め込まれた金属製のチョーカーによって飾られていた。
「ぐ……だ、だから何だって言うのよ……!」
「ヒュー、その苦悶の表情もたまんねーじゃん? それにしてもさぁ、連勝しないと解放されないってカワイソーですよね〜」
ルクスガルンでゼーエンに敗れたレーナだが、その身柄は機甲戦団によって拘束されており、今は〈グラディエーター枠〉としての強制戦闘を余儀なくされていた。規定数の連勝を達成しない限り解放は許されず、仮に脱走や反乱を試みようものなら――
「その首のチョーカーが……ドカン!」
脅かすレミエルの声に、レーナがビクッと肩を震わせる。チョーカーの宝石にはイオナズン相当の魔力が込められており、それを指先でツンツンと突きながら、品定めするような目線を向けるレミエル。
「でもお姉さん、見た目も結構イイ感じだし、さっきもイイ声出してましたよねぇ……ね、あたしが解放してもらえるように頼んであげよっか?」
思わぬ筋からの申し出に、死んだ魚のようなレーナの目がにわかに輝く。思わずレミエルの手を握り、
「ほ、本当にそんなことが……?」
「その時は代わりにあたしのゆーことを聞いてもらうことになりますけどね? ま、ここじゃなんですしぃ、控え室でゆっくり話しましょっか〜」
やがて、レーナがレミエルに肩を抱かれながら退場し――
数刻の後――Bブロック三回戦の出場者が、ほぼ同時にリングへと姿を現す。
それは互いにウェディの男性であり、一人は黒い執事服をスタイリッシュに着こなす金縁眼鏡の青年。そしてもう一人は、白いファーをあしらった黒いコートを羽織った鋭い雰囲気の青年であった。
「よう……意外に早く当たることになったな、先輩」
「これも運命の巡り合わせ……と言うのは、少々ロマンチシズムに過ぎるでしょうか」
口の端で不敵な笑みを浮かべるゼーエンとは対照的に、表情を一切変えることなく金縁眼鏡を外すセバスだが、その瞳には熱い闘志の輝きが秘められていた。無論ゼーエンもそれに気づいており、虎爪に固めた指先に紺碧の闘気を集中することで応えてみせる。
「あの日以来、俺はアズール・ドゥジエムとウェナブルーとの決着をつける時を心待ちにしてしていたのさ。――この意味、分かるだろう?」
「無論です。私が機甲戦団から飛び立つことで得たウェナブルーとしての力と、貴方が機甲戦団で己を高めたことで得たアズールの力……どちらがより高みへ至ったか、ここで確かめるのも悪くないでしょう」
セバスが言い放つと同時に、両者が拳を固めて対照的な変身ポーズを取る。その拳からは軋むような音が漏れ出しており、双方共に全身からオーラが陽炎のように立ち昇っていた。
一方は蒼穹、一方は紺碧――その様子は観客席にも伝わっており、特に貴賓席から見下ろしていたエリミリアは片時も目を離すことなく武舞台を見守っていた。
「さぁて……若い信念のぶつかり合い、今回はどちらに勝利の魔女は微笑むんでしょうね」
魔女の呟きが闘技場の熱気にかき消された時、立会人のマイクを握る手に力が込められる。スゥッ……と大きく息を吸う音が入り、そして――
「Bブロック三回戦、セバス対ゼーエン――始め!」
試合開始が高らかに宣告され、爆発的に膨れ上がる両者のオーラ。最初からフルパワーでのぶつかり合いが約束された決戦の時――二人は、同時に宣言する!
『――魔装展開!』
END
しかし……