22.5 暗黒の魔女、その真なる力②
エリミリアの最終号令と同時に、艦首中央の主砲から極大消滅呪文級の膨大な暗黒のエネルギーが断末魔を思わせる悍ましい旋律と共に発射され――ほとんど消し飛ばされるかのように貫通された大海獣が沈み行く様を何の感慨もなく眺めながら、それでもエリミリアは杖を下ろさない。
(仮にも六軍王の複製体……バルデアスを沈めるために用意された別次元の戦力が、このまま放置されるはずもない)
その時――海風に乗って僅かな魔力の揺らぎを感じだエリミリアが、ふっと闇夜の空を見上げる。一見して天空に煌めく数多の星の一つに見えたそれは、明らかにそれよりも近い上空で確かな意思をもって蠢いていた。
それに気づくが早いが、エリミリアが背中に赤と黒が入り乱れる水流光の翼を魔力で具現化し、夜空へと舞い上がる。そこで彼女が耳にした詠唱は――
「――ザオリーマ」
若い青年の声が唱えた蘇生呪文が、一度は海底に沈んだ大海獣に再び命を与える。蘇ったそれが浮上して来るまでの間、エリミリアが中空に魔法陣を描いてそこに着地し――少し離れた場所には、同じく宙に描かれた魔法陣に立つ、死神を思わせる大鎌を携えた人間男性の術師の姿があった。その全容は闇で覆われており、細かい表情を窺い知ることはできない。
「流石は暗黒の魔女エリミリア、ほんの少しの魔力の動きでこちらに気づくとはね」
「ぱっと見はデスマスターみたいだけど、私はそちらのことを知らないのよね。自己紹介でもしてくださる?」
漆黒の髪を真ん中で分け、肩と胸を覆う軽鎧にマントを靡かせていることが月明かりで辛うじて判別できる暗闇の中、そのデスマスターはおどけたような仕草でエリミリアへ一礼してみせる。
「ご同輩に会えて嬉しい限りではあるけども、僕はウングラ君に最低限の義理を果たしに来ただけなんでね。仮にもあのロトゼタシアの六軍王を再現した商品がこんなに簡単にやられたとあっちゃ、技術提供しているこちらの不手際が問われてしまうからさ」
同輩――やはり、同種の人間か。
エリミリアがもはや問答無用とばかりに杖を向けるも、デスマスターは戦闘態勢に入ろうとしない。それどころか肩を竦めて、
「僕に構ってる暇があるのかい? そろそろジャコラコピーが再びそちらの戦艦を狙うだろうし、主砲をぶっ放した後なんて丸裸も同然だと思うけど?」
「戦艦は直せば済むじゃない? それよりもここでそちらの息の根を止めておけば、ヒーラーと敵の仕入先を断ててお得だと思うけど?」
口調をそのまま返すが早いが容赦なく放たれたドルモーアを、デスマスターが目の前で大鎌を回転させて生み出した結界で何とか防ぎ切る。既に今度はドルマドンの詠唱に入っているエリミリアへ向かって、
「おお、怖い怖い。心配しなくても、アフターケアはこれで終わりさ。友達を待たせてるから、僕はこれで失礼するよ。――じゃ、また何処かで」
そのまま闇へ溶け込むかのように消え去ったデスマスターに一瞥もくれず、エリミリアが海面を見下ろす。既に復活を果たした大海獣が再び戦艦を襲わんとする中、彼女は夜空に描かれた魔法陣を踏み締め、杖を夜空へと掲げていた。
「天よ――はぁぁぁぁっ!」
魔女の杖が振り下ろされた時、迸る魔力が暗闇の雲を引き裂き――大海獣を叩き潰さんと天から墜ちる極滅の魔星こそが、エリミリアの切り札の一つである〈ディザスターメテオ〉そのものであった。
〜22.5 暗黒の魔女、その真なる力③へ続く〜