22.5 暗黒の魔女、その真なる力③
「今度こそ海の藻屑となるがいい!」
冷酷に言い放つその姿は、普段の彼女からは想像もつかない邪悪さに満ち溢れており――その名の通り天災級の隕石が大海獣に炸裂した瞬間、魔女は高らかに笑うのであった。
「アーハッハッハァ! 直撃!」
全てを打ち砕く一撃が凄まじい鳴動と共に天高く水柱を噴き上げ、まともに受けた大海獣の姿がその中へと覆い隠される。戦艦全体を激しく揺らし、遠くへ押し流す程の震動が海面を襲い、エリミリアの眼下一面に膨大な水煙が立ち込める中――不気味に輝く巨大な両眼に気づいた時、大海獣の口から意趣返しとばかりに極太の熱線が上空の魔女へと放たれる!
「あれだけの巨体、やっぱ一撃じゃ落ちないかぁ」
足元に展開された魔法陣がそのまま防壁となり、自身への直撃は避けられたエリミリア。だが足場を破壊された彼女は飛行時に用いた水流光の翼を展開させる間もなく、そのまま闇の大海原へ吸い込まれるように落下してしまう。
(しょうがない、気が進まないけど……マユちゃん戦以来の奥の手、使うっきゃないか)
落下中のエリミリアの全身から、恐ろしい勢いで闇の波動が巻き起こる。膨れ上がる強大な魔力の前に魔女の衣が消し飛び、一糸まとわぬ姿で彼女が詠唱したのは――
「本気を出させたことを後悔させてやるわよ――ドラゴラム!」
独自の解釈を加えた〈魔竜変化呪文〉――ドラゴラムを唱えた魔女の姿が、黄金の角を誇る壮大な暗黒竜の姿へと変貌を遂げる。夜空を覆う程の赤い皮膜の翼を羽ばたかせて滞空し、全てを滅ぼす勢いで吐き出されたダークネスブレスが大海獣の全身を呪いのように蝕み尽くす。あらゆる存在を消し飛ばす出力を誇るそれを受けてなおもがき苦しむ巨体を上空から見下ろし、暗黒竜エリミリアは低く唸るような声で宣告した。
『こうなってはもはや手加減はできんぞ……塵も残さず滅ぼしてくれるわ!』
上空から叩きつけるような暗黒竜のテールスイングが大海獣を襲い、尾の先にスパイクのように生えている棘がその身を穿つ。一方の大海獣も巨体から黒い血を流し、闇の波動で蝕まれながらも盛大に暴れ回って火球を吐き散らかしており、カウンターでそれを受けた漆黒の竜鱗が焼け爛れ、プスプスと焦げ臭い煙が立ち込める。
暗黒竜が痛みで牙をギシリと食いしばりながらも、天空から舞い降りる勢いで鋼鉄をも引き裂く竜爪を振りかざして反撃――まるで怪獣大戦争の様相を呈する中、やがて大海獣の巨体が腐食するかのように、徐々に崩れつつあった。
『ククク……思った通り! やはりその規模を複製するとなれば、長時間の維持はできまい!』
エリミリアが変化した暗黒竜の威容を優に超える巨体を誇る大海獣だが、複製体として人の手で蘇らせることは容易ではなく、その耐久性をも完全に再現するには至っていなかった。それでも拠点制圧程度であれば十分耐え得るレベルではあるのだが、幾度となく壊滅級のダメージを受け続けてきた肉体は、それだけ限界への到達を早める結果となっていた。
『哀れな生命よ、せめて心安らかに死ぬのだな!』
空高く飛び上がった暗黒竜が、もがき苦しむ大海獣目がけて急降下――ウイングダイブが貫通した勢いで再度上空へと舞い戻り、月を背負いながら天からの裁きとばかりに全身全霊のダークネスブレスを放射する!
『永劫の闇に抱かれて眠るがいい……!』
大海獣は最期の悲鳴を上げることもなく、砕け散りながら海底へと沈み――今度は二度と浮上することはなかった。
そのまま大波で激しく揺れるバルデアスに着地する瞬間、暗黒竜は元のエリミリアの姿へと戻る。ドラゴラムの反動で消し飛んだ衣類だが、指をパチンと鳴らした瞬間、月光に照らされた裸身は即座に普段の魔女服を身にまとっていた。
「裸で月光浴もイイんだけどね、あの子達が帰る前にバルデアスを整備し直さなきゃ……」
再び魔力脈にリンクしたエリミリアが、艦内のキラーマシン全機にメンテナンスの命令を下す。そろそろルクスガルンから戻るであろうメギウス達を出迎えるためにも、彼女はせっせと作業を急がせていた。
(それにしても……あのデスマスター、少し面倒なことになりそうかも。暗くてよく分からなかったけど、どうもまだ近くに居そうな気がするのよね〜)
夜空の月を見上げながら、それが新たな敵となり得るのかを思案するエリミリア。魔物商人の頭目であるウングラが既に斃された今、果たしてこれからの展開がどうなるのか――流石の暗黒の魔女も、今はまだ知る由もなかった。
「……あ、いい加減メギウス達を回収してあげなきゃね!」
〜22.5 暗黒の魔女、その真なる力④へ続く〜