黒い鎧たちが消え去ると、なぜかモンスターも持ってる見慣れた硬貨が少しと黒い石の嵌め込まれた指輪が残された。本体の鎧は欠片も、シミさえも残さず消えちまった。
不意に吹いた風で今の戦闘の後さえも消えそうだ。埃が入らないように目を細めた時…同じように目を細めた砂嵐の時を思い出した。ああ、ドルワームに着く前の砂漠で…
あまり見かけない三角を二つ星の様に重ね、周りをエテーネ文字の羅列で創られた紋章。砂嵐を避けるために潜り込んだ洞穴か塹壕跡だった気がするが…ドコだったかハッキリしないな。
とりあえず明日は技術師であるメンメってやつを探そう。
あの鎧たちの後ろに、もっと大きな影が揺らめいている。そう感じる。相棒を万全な状態にしておきたい。
まだ気絶している騎士団達に近付いて起こす。
「おい、しっかりしろ」
頬を手の甲でぺしぺし叩く。
「う、うーん…はっ」
目を醒まして上半身を起こし、頭を振るドワーフの騎士団員。もう一人も同じように起こす。
「だいじょうぶか?」
「あ、ああ…助けてくれたのか?すまない恩にきる」
「一体何が…ウエディの魔法戦士団が近付いてきて…すぐ気が遠くなって…」
自分たちが黒いモヤに消え、再び現れた時の記憶はどうやら無いようだ。
まてよ、何かひっかかるな。なぜこいつらを狙ったんだ?簡単に意識を奪って拐えるなら、今までいくらでもチャンスはあったはずだ。
「なんてことだ…あんなに快いウエディ達が犯人だなんて。今だに信じられん…」
「いや、あれは魔法戦士団を騙った魔物達だったぜ。ああやって人を拐ってたんだろうな。」
「まさか俺たちが狙われるとはな…しかも魔除けの結界に護られたこの街での魔物の仕業とは…由々しき事態だ。」
そうだな、ともう一人のドワーフの団員が頷く。
「我らは急ぎ報告に戻る。ドゥラ院長へ相談してみるとするよ。魔物絡みとなれば、何か善い対策を知っておられそうだ。」
なぜここで指揮官であるラミザ王子の名が一番に出てこないのかを察しつつ、ああと頷いた。ドルワーム王立研究院は国内外問わず名を知られている。それも若くして優秀な院長あっての事だ。
その場を離れ、宿屋へと向かう途中に他の見廻り団員達と出くわした。警告を受けるか捕まるかと気を張ったが、敬礼を受けた。なぜかすでに話が通っているらしい。不思議に思い話を聞いたら、街のあちこちに淡く光る魔法陣があり、移動の手段として使えるとの事だ。
「どうゆう仕組みなんだろうな?」
「対象の重さを消し、登録座標に飛翔移動させるルーラ石原理とは違う、魔法理論を用いた空間同士の相互干渉装置のようですね。」
「…」
「申し訳ありません、マスターが理解できない事は理解していたのですが。」
宿屋に着く前に寝入りそうな俺を見て、相棒が言う。ぐぅの音も出ねえよ。
なんとか辿り着いた宿屋のベッドの上で、横になった覚えがないくらいの早さで眠りについた。風呂だの歯磨きだの相棒が言ってた気がするが、気のせいだろう。
その夜はひどい夢を見た。移動の魔法陣に乗って周りの景色が変わり、不思議だが便利だなと思いつつ降りたら、なぜかハエ男になってて騒がれる夢だ。
俺は絶対移動装置には乗らねえ。