翼が折れた鳥は、どんな気持ちでいるんだろう。もうあの大空に羽ばたけないから絶望してしまうのか。もう幸せにはなれないのか。それとも...。今回は昔のチームメンバーのお話。
______魔法の迷宮______
ラプ『大丈夫、僕が守るよ^^』
ゆか『うんうん!ラプちゃんが私達を守って、まりちゃんがバズズを焼肉にしちゃおー!』
チームメンバーと焼肉...じゃなく魔法の迷宮に来ていた。パラディンのラプ(仮名)は今日も口癖のように誰かを守ると言ってるし、ゆかぴょんはゆかぴょんで今日もテンションが高い。
マリ『焼肉にするのはいいけど、バズズの焼肉は絶対美味しくないと思うぞ?硬そうだし、下手したら死ぬかも』
ラプ『大丈夫、僕が全部食べるよ^^』
マリ『いやいや!?そこまで身を挺して守ろうとしなくていいから!』
そうこうしてる内にバズズと戦闘する私達。ラプは私達をしっかりと守り、私もしっかりとバズズを焼肉にするのでした。
マリ『あっぶな。ツインクローで死にかけたわ。ありがとなラプ』
ラプ『いえいえ^^』
ラプがパラディンをやり出したきっかけは、元々槍が好きで槍を使える職業かつ誰かを守ることが好きらしいのでパラディンになったんだ。彼の鎧を着た重装備は、ガードラント城の警備兵に似ていてちょっとかっこいい。
______アズラン住宅村______
ゆかぴょんはログアウトし、ラプと2人きりに。
ラプ『いやぁ、ありがとね』
マリ『どした急に』
感謝されるようなことを私はしたかな。・・・うーん、やっぱり思いつかない。
ラプ『最近、楽しいんだ。みんながいて。みんなを、パラディンという職業で守れてね』
マリ『なるほどな。でも、ほんとに守るの好きだなラプは』
補助、回復やってる人は仲間の役にたつからやりがいがあるのかな。私も少しやってみたい気持ちといつもお世話になってることに感謝したくなった。
マリ『こっちこそ、ありがとな。助かってる。誰かを守るなんてヒーローみたいだな』
ラプ『ヒーローだなんて。僕はそんな良い人じゃないですし、ヒーローにはなれませんよ。飛べもしません。歩くことも出来ないんですから』
マリ『飛ぶことは出来ないかもしれないけど、歩くことは出来るだろう』
ラプ『いいえ、歩けません』
一体何を言ってるんだ?なんかの言葉遊びでもしてるのか?最初はそんなことを考えていた。でもそれは本当の意味で。
ラプ『マジで歩けないんですよ^^車椅子生活ね』
マリ『ええっと・・・、すまんっ、失礼なこと言ってたかもしれない』
こうゆう時、私は慎重に、慎重に言葉を選びます。誰が何のことで傷つくかはわからないから。
ラプ『いえ、大丈夫ですよ。マリサさんには、なんでか、知ってほしいんです。』
マリ『知ってほしい?』
ラプ『たまには、誰かに聞いてほしいんですよ。僕のこと』
色々と質問してもいいってことなのかな。
マリ『元々...生まれつきとかなのか?』
ラプ『いえ、事故です。ひかれちゃいましてね』
マリ『そう..なんだ。やっぱり、治らないの..?』
ラプ『はい、治らないですね。これのせいで仕事も出来ないし、姉には迷惑かけちゃうし、彼女にはフラれちゃうしで、当時は結構メンタルにきてました』
私は想像します。足が動かなくなった自分を。怖い、信じられない、後悔が私の真ん中でグルグルと渦巻き、足がすくむ感覚さえ覚えてしまう程。
ラプ『なんでそんな暗くなってんの笑』
マリ『いや...ラプは...ラプは大丈夫なのかよ...私は考えただけで恐ろしいぞ...』
ラプ『確かに、リアルの僕は、何も出来ないです。誰かを守ることも出来ない、でも』
ラプは私の前で走り回って見せる。その姿がなんだか子供がはしゃいでるとこを見てるようだった。
ラプ『ここだったら、走れる。義足かな笑
それに、誰かを守れる』
そうか、だから、彼はここにいて楽しそうなのか。だから、守ることにやりがいを感じてるのか。彼の、小さな幸せはきっとここ、アストルティアにあるんだろうな。
マリ『教えてくれてありがとう』
ラプ『いえ、それにリアルの体じゃ好きな人に好きとも言えないですしね。それも合わさってオンラインゲームって楽しいなって思いますよ』
マリ『それ、どういう意味だ?笑』
ラプ『秘密^^』
ラプとはその後もチームメンバーとして仲良くしていった。彼と接している時、やっぱり今自分が足を使って"歩いてる"のは幸せなことだと実感させられる。 彼とはもう会えてないけれど、小さな幸せを見つけた義足のパラディンはきっと今日も誰かを守っているんだろうな