【当日誌は、第3回アストルティア・プリンス賞を受賞されたナルミ様の作品「雪原王ラギの伝承」をモチーフにした個人的な趣味全開の2次創作(3次創作?)です。その為筆者の個人的な解釈や、メインストーリーの若干のネタバレを含みます。ご了承ください。ナルミ様ご本人には連絡等は一切していないので、何かしら問題があった場合は自主的に削除いたします。】
【当日誌は後編です。お読みいただく際は、先に前頁の前編からよんでいただく事をお勧めします】
寒さの中で生き続けた雪原王だが、彼の人生に終止符を打ったのも、また寒さだった。
最初に歴史に名を現してから、およそ三十年後。
吹雪の中、弓を構え立った姿勢のまま事切れている雪原王の姿が発見された。
死してなお凛として気高く力強く雪原に立ち続ける王の姿に人々は感銘し、その亡骸を彼の愛した雪原の湖の滝壺に沈め、その一帯をラギ雪原と名付けたという。
残酷で不明瞭な歴史は、彼の放つ矢を『見る』事も、彼の過去を知る事もできなかった。
この伝承には不可解な点もいくつかあり、その為、多くの脚色が加えられている説、そもそもラギという人物自体が架空の存在だという説もある。
事実、600年経過した現在に至るまで、記録のような『音速を超える不可視の弓術』は確認されていない。
彼の最期については特に疑問点が多い。
現在ラギ雪原と呼ばれる一帯には、滝のある湖は存在しない。
立往生というのも、いくら逞しい大男でも、亡骸になれば吹雪で倒れてしまいそうなものだ。
以上のように、極めて曖昧で不完全な証拠を元に伝えられた伝承ではあるが、ここに私は個人的な推測を絡めて、一つの仮説を立てたいと思う。
たった一つ、晩年のラギが自身について語ったとされる言葉がある。
何故こんな生活を続けるのか。何故ここまで激しい修行を続けているのか。自称弟子の問いに対し、ラギはこう答えたという。
「太陽を、射抜くためだ」
太陽を、射抜く。
ずいぶん抽象的で荒唐無稽な言葉だが、ひょっとするとその太陽とは、500年前に世界を焼いた神殿レイダメテスではなかったのか。
雪原王が弓の修行をする際には、いつもランドン山脈を臨む方角を睨み付けていたという。
立往生で弓を構えていた王の視線の先にも、霊峰の頂があったという。
現在その場所には、冥王を生んだと言われている、かつてレイダメテスと呼ばれていた物と酷似した巨大な建築物が浮かんでいる。
仮に、未来を知る何者かがラギを訪ね、レイダメテスの存在を教えたのだしたら?
彼は本気で、弓矢一つで神殿を堕とそうとしたのではないか。
もしくは、その神殿で将来生まれる巨悪…『冥王』を『射てし者』を育てるため、その業と心を、後世に伝えようとしたのではないか。
雪原王ラギ。
果たして彼は実在の人物だったのか。
確かめる術を歴史は残しておらず、我々は真実を知る事はできない。
だが、彼が本当に存在していたのかどうかは、この際どうでもいいのかもしれない。
雪原王の名はその地の名として今も生き続けており、オーグリード大陸に住まうオーガ達の中には『苦境の中に身を置いてこそ、己は鍛えられるものである』という信念が生き続けている。
それだけで、この伝承は後世まで語り継ぐ価値があるものだと私は思うのだ。
【終】