『クエスト名:いやしの雪中花の採取
依頼者:トラム・ベルウッド
依頼概要:数年に一度開花する強力な薬草『いやしの雪中花』を採取してきてほしい。使用用途についてはお答えできない。
報酬:200万ゴールド(前金100万ゴールド、採取に成功すれば追加で100万ゴールド支払う)
…』
と、依頼書の頭の方に書いてあった。後ろの部分はもっと詳細な契約内容が掲載されていた。
なるほど、前金だけで100万か。失敗すれば無報酬なんて酷い条件付けるクエストもザラな中、これはかなり良心的な条件だ。
しかも、採取系クエスト。場所にもよるが、上手くいけば戦闘ゼロで依頼達成が可能な代物だ。俺は魔物と戦うこと以上に、逃げるのが得意なのだ。
同じものを探している同業者とバッティングする…って可能性は、そんなに低くないか。しかし、こういうトレジャーハントみたいな代物は、早い者勝ちが暗黙の了解みたいなとこがある。さっき店主が言っていたのは、「そこそこの物量がある素材を、一人の冒険者が根こそぎ持って行ってしまう」ようなことが恨みを買うってことで、今回のような「明らかに貴重な代物を誰かが採取する」ような事例には当たらない。まだしも「運が無かった」と諦めがつくからだ。
流石に1回でノルマ達成とまではいかないが、今の状況にはうってつけのクエストではないか。
「なんだ、あるじゃないかおっさん!恨みを買わないでも大金稼げるクエスト!」
喜び勇んで俺は言ったが、店主は何だか妙な顔をしていた。
「…な、なんだよ、まだなんかあんのか?」
「ん~、いやあ、ちょっと気になることはあるんだけどね…君がやる気出しているなら、わざわざ言うほどのことではないか」
言わないなら顔に出さないでほしい。こっちが気になってしまう。
「…あ、この依頼の捜索場所、割と魔物が強いことで通っているよ。君のレベル帯で大丈夫かい?」
「何っ…!?うわ、本当だ…これ一線級の冒険者が行くところじゃないか…い、いやトヘロス聖水と忍び足使えばいけるか…?うーむ…」
「どうする?君は確か僧侶は未経験だった筈だろう?ザオも使えないとなるときついんじゃないかい?」
「…いや、やる。時間が惜しいんだ、あんまりえり好みして仕事を選んでられない。多少危険でもやってやる」
「わかった。なら、こっちの書類にサインを」
俺は店主からクエストの受理確認書類を受け取って、自分の本名を書き込んだ。文面には、既に何回も見ている、お決まりの文句が書かれていた。
『本店のクエストを受理することで、受理者がクエストの工程中、または関係者との関わりで、何らかの不利益を被った場合にあっても、本店は一切の責任を負いません。』
日常生活で目にする書類ではお目にかかれない、中々ブラックな文章だと思う。ちなみに、この類の仕事に、保険は当然のように付かない。何が起こっても自己責任。準備費用も自己負担。
この辺は、だいぶ前から腹をくくっている。
受理書類を店主に突き返すと、店主はいつも通りの柔らかい笑みを浮かべて、
「確かに受け取った。では、ご武運を」
とだけ言った。
この時、俺はいつものように、一つの事実に目をつむっていた。
この男が含みのある言い方をするときは、大体はこっちの知らない、何か落とし穴のような裏事情があることを。
具体的には、投獄されるような危険性とか、やばい人たちに捕まってかわいがられたりとか、シャレにならないような事情。
この辺に勘付いていても、金には換えられないというのが現状である。どうにか火の粉を払って大金を掴まなければならない。
なんという不遇。今すぐにでも転職してやりたいが、残念ながら転職程度では借金まで無くならないのだ。
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