丁度店主の解説が終わったあたりで、ハンマーの内部の光が小さくなり、やがて完全に消えた。どうやら完成したらしい。
店主は再び、大判焼きならぬ『大葉焼き』の柄を掴んで、二つに開いた。見れば、思った通りペーストが固まって、葉っぱ形の謎の物体が穴の中に納まっていた。色が白いことを除けば、物体のへにゃり具合とか凹凸とか、植物っぽさがよく出ていた。
「で、この『大葉焼き』の役割は見ての通り、この妙な葉状の薄い物体を作るものだ。後は、この物体に色々な手間暇かけて、とある道具を作り出すわけだけど…」
店主はわざわざ、そこまで言って言葉を切った。
「後は、流石に分かるよね?でも一応出題させてもらおう。この物体から作り出す『とある道具』とは、一体なんでしょう?」
バカにしてるとは思ったが、ここまで見せられたら、答えるしかないぞ。ホント、性根の悪いおっさんだぜ。
「そこまで懇切丁寧に解説されたら子供でもわからあ。その『大葉焼き』で作る道具は…世界樹の葉だな?」
俺がそう答えると、店主は満足そうに
「正解」
とだけ言った。
***
「ねえ君、おかしいと思ったことはないかい?『世界樹から取れる道具』なんていう、この世で最も貴重な素材を原材料にした代物が、なんで世間で『一流冒険者のスタンダード』と呼ばれるほど普及していると思う?世界中の冒険者の間で奪い合いにもならないほど大量に存在しているものが、本当にそんなに大層な素材で出来ていると思う?
今現在の世界、『世界樹』本体はエルトナ大陸の久遠の森にしか存在していない。古い文献には、他にも数本あったとは書かれてるが、長い時間が経つうちに、どうも久遠の森の一本だけになってしまったようだ。
あの樹にしたって相当な大木だから、『実際に』葉っぱをもぎろうとすれば、世界中の冒険者を賄えてしまう程の枚数の世界樹の葉が取れるだろうね。けれど、あの世界樹は大陸を『魔障』という厄介な代物から守っているから、下手に刺激して枯らしてしまっては大変だ。だからこそ、麓のツスクルの村の人間が代々守ってきたんだ。
そうなると、ツスクルの連中はいざ知らず、外部の人間がそう簡単に世界樹の葉を採集することは出来ない。交渉すれば採取も全く不可能って訳じゃないんだろうけど、それには『大樹の守り人』の許可とか、七面倒な手続きを踏まないとならない。冒険者は昔から全国津々浦々と忙しく駆け回ってたものだから、長い間一か所に固まって交渉するって根性のある奴は中々いない。つまり世界樹の葉を入手できる冒険者は、本当にごく一握りだったんだ。
そんなわけで、昔の『世界樹の葉』ってのは、超が付くレアモノだった訳。
そんな中、『手に入らないんだったら作ってしまえ』って、面白いことを考えた冒険者がいた。他の大勢と同じく、長時間交渉事をするというのが死ぬほど嫌だって人種だったんだろうね。
その男が資金繰りとか、薬草学・呪文学等々の専門家を雇ったりして、色々研究を重ねた結果、『葉っぱっぽい物体を作って、山ほど回復呪文を注ぎ込めば、本物の世界樹の葉並みの回復力を持つアイテムが作り出せる』って結論にたどり着いた。そして、当時既に台頭し始めていた、道具鍛冶ギルドの長に、『大金を払うから、葉っぱっぽい物体を作り出せる工具を作ってほしい』と頼みに行ったんだ。
さっきも言った通り、このギルド長は職人気質が過ぎるというか、頭の固い人物だったんだけど、高額な報酬額を提示されたのもあって、渋々その仕事を引き受けたんだ。で、このギルド長は、好物の焼き菓子を作るための『魔法の大判焼き』を既に完成させていたから、この技術を元に、依頼された工具を開発した…その結果、完成したのがさっき見せた『大葉焼き』って訳だ。
まあ、報酬の支払いの際に相当なすったもんだがあったらしくて、借金を抱えていた発案者の冒険者は、工具の完成後に失踪。作成者たる当時のギルド長も、その借金筋で散々な目にあって『大葉焼き』の所有権を放棄、その後は二度と同じ工具を作らなかったんだそうだ。」
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4474183/)