「で、話はこの大葉焼きが、さっき話したワグナー薬学研究機関の研究者に買い取られてから大ごとになっていく。
大葉焼きは、それまで人の手で作成出来なかったものを大量に作り出せる、当時としては破格の性能を持った逸品だ。作成した本人は金儲けに使おうとはしなかったが、当然他の人は金儲けしない主義ばかりではない。大葉焼きを買い取った研究者は、そのまんま『お金大好き!』という人物だったというのが、一番まずいところだったんだろう。
まあ…その後も色々悪いことが重なったんだろうね。その悪徳研究者が所長になって、ワグナー機関のあり方というのも、随分様変わりした。
それ以前はまだぎりぎり、ちゃんと研究機関として新種の薬草の開発とか、全うに人の役に立つ技術を研究していたんだけど、大葉焼きが組織内に入ってからは思いっきり方向転換してしまったんだ。『世界樹の葉を大量生産する組織』って方向にね。
大葉焼き自体の量産を皮切りに、大葉焼きにかけるのに最適な植物の調査や、その供給手段の独占、更には世界樹の葉の量産と方々への出荷を進めるにつれ、ワグナー機関は闇商売に手を出して、あろうことか大成功した。先行販売した豪商たちから、とんでもない大金が流れてきたんだ。それこそ、荒くれもんを雇って、私設部隊というか、荒事専門の部署を作ってしまうくらいの金がね。
後はもう、金の力に任せてやりたい放題さ。量産した世界樹の葉を『ツスクルの村と交渉して仕入れた本物』と偽って、宿屋協会やゴーレック氏など世界の豪商に高値で売りつけるついでに、恐喝して量産していることの口止めをしたりとか。機関が卸す世界樹の葉の量に疑問を持って調査に来た役人や冒険者の面々を、罠にはめて監禁・口止めするとか。原材料の植物が採れる地域を『縄張り』認定して、知らずに侵入してくる人々を恐喝したり、時には暴力に訴えて追い出すとか。その他諸々の妨害工作も沢山やって、それはもう物凄い勢いで勢力を拡大した。
ぽっと出の若い闇商会に好き勝手された古い闇商人たちは、ワグナー機関を猛烈に嫌ったんだけど、気付いたときにはもう、ワグナー機関に簡単には手出しが出来なくなっていた。
何しろ、昔から品不足で困っていた世界樹の葉が安定して手に入るようになったんだ。ワグナー機関は世界各国の軍隊や、ゴーレック氏含む一部の豪商からは熱烈に支持を受けて、強力な後ろ盾が出来てしまったんだ。闇商会同士の小競り合いならともかく、本格的な軍隊や表世界の豪商相手にやり合うのは、血気盛んな闇商人たちにとっても分が悪い。
産地を偽られたツスクルの村でさえ、『本物の世界樹が、葉っぱの強奪目的に荒らされなくなるというのなら』という理由で、ワグナー機関に関しては沈黙してしまう始末だ。
これじゃあ物理的に戦うのも法的に争うのも無理だということで、ワグナー機関に直接酷い目にあわされた連中も、商売を邪魔された面々も、正面切って戦うことをやめてしまった。
こんな経緯で、かつて研究機関だったワグナー薬学研究機関は、血で血を洗う闇商売、世界樹の葉を量産する唯一無二の巨大経済団体に上り詰めたんだ」
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4475396/)