「…随分詳しいんだな」
と、俺は店主に不審な目を向けた。下手に聞き入って嘘を教え込まされたら目も当てられない。
「ワグナー機関自体はあくまで『公正な商売を行なっています』って言って、違法行為については全く認めていないんだけど、決して一枚岩な組織ではないんだ。昔から内部告発とか脱退者のタレコミとかで、世界樹の葉量産とかその他の妨害工作とか、裏事情は結構ダダ漏れでね。僕ら闇商人の間では有名な話なんだよ。ワグナー機関は隠ぺい工作が好きな割に雑だからね。おかげで方々から物凄い恨みを買って、あっちこっちの商会とずっと対立している。
まあ、対外的にはそんなグダグダな状況でも、相当な権力を持った組織だから、個人の闇商人はおろか、大商会でも全く手が出せない状態が続いたんだ。この辺のこう着状態が崩れたのは、実はつい最近のことなんだよ」
「崩れたの?なんで?」
「組織内の内紛だよ。例の悪徳所長の系譜研究者グループとナンバーツーの研究者グループ…いや、もうちょい区切りは細かいのかな?とにかく、ワグナー機関でいくつかの派閥が出来てて、仲の悪い派閥同士で大きな権力抗争を始めたんだ。今は顧客リストにある有力な豪商の後ろ盾の取り合いとか、私設部隊の統括でもめたりとか、もうありとあらゆる利権を巡って、1年近く大騒ぎが続いてるんだ」
「うわあ~~~…何があったらそんなに混乱すんの…」
「元々、そういうクーデターの準備が進んでいたんだろうねー…勢いだけで闇商売に手を出したんだから、初めから団結もなにもなかっただろうし。組織内の穏健派グループが過激な別グループに襲われたりとか、流血騒ぎまで起きてるんだ。実はうちの店にも、ワグナー機関のお偉方から『亡命手続き』なんて依頼が来てるんだぜ?傍から見てて気持ちいいくらいしっちゃかめっちゃかだ。一昨年だったら、誰もこんな事態になるとは予想できなかったろうね」
「うーん…」
と俺はうなった。これだけ詳細に話が詰まっていると、どうにも実話であるという気がしてくる。信用していいのか?
「さて、随分と前置きが長くなったが、そろそろ主題に入らせてもらう。
僕が提唱した『商談』というのは、君が持ってきた自然物…主には雑草だけど、他の土とか氷水もだね、これらをこちらで買い取りたいという話だ。
例の大葉焼き自体はどんな植物にも使うことが出来るんだけど、作れる世界樹の葉の品質は材料によってムラがあってね。なるべく多くの魔力を含んだ植物の方が良い。その点で、ゴズ渓谷大雪柱で採れる植物は高品質なんだ。
あの土地は久遠の森とか、他の聖地と比べるとマイナーな場所ではあるが、国の保護を受けていない土地の中では最上位のパワースポットでね。
大雪柱にある土とか草とかの自然物は、呪文が宿るほど魔力を蓄えるものは少ないけど、町中の雑草なんかと比べたらずっと多くの魔力を秘めている。君が採取に失敗したいやしの雪中花は、その類の中でも最大の恩恵だね。
とにかく、君が持ってきたあの雑草は、闇市場では雑草にあるまじき高値で取引される代物だ。
量産型の世界樹の葉を作れるのは、何もワグナー機関だけじゃないのさ。さっき見せた大葉焼きのレプリカを持っている商人もそれなりにいて、良質な植物を求めて闇市場にやってくる連中も結構な数に上る。ワグナー機関が独占してきた土地の霊草とあれば、高値で買う奴もいるだろうさ。表立って商売したらワグナー機関に目を付けられるから、細々とした規模ではあるけどね。裏口でこっそりというやつさ。
あれらを僕に譲ってくれたら、得られた報酬の8割を君に譲ろう。土壌や氷水を含めて、150万ゴールドくらいにはなると思う。その8割で120万だ」
「120万!?」
嘘みたいな高値だ。旅人バザーなら、最高級は無理でもそれなりの値段の武器が買えてしまう金額じゃないか!本当の話なら、クエスト失敗の損失を完全に取り返せてしまえる。雑草如きで滅茶苦茶おいしい商談だ。
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4475399/)