…いや、いやいや。二つ返事するにはまだ情報が足りない。世の中そんなに甘いばっかりの話がある訳ない。
ましてや、今回は闇市場が関わってるんだ。ちょっとでも脇の甘さを見せたら、どこから弱みを突かれるかわかったもんじゃない。
そうだ、確かこいつ、しょっぱな「利益は50万くらい」って言ってたよな?まだまだ聞いていない情報がありそうだ。
「…商談に乗るかどうかは、もうちょっと詳しく聞いてからにしよう。一番初めに言ってた厄介ごとの方を説明してくんないかな」
と、俺は店主に向かって言った。すると、店主は少し驚いたような顔をして、
「お?意外だね。金額を言えばすぐさま乗ってくると思ったんだけど」
「誰かさんのせいでな、おいしい話には最初疑ってからかかる癖が付いたんだよ」
「ハハッ!それはいい心掛けだね。字面ばかり追っていると痛い目に遭うってことが、君もわかってきたってことかな」
嫌味を言ったつもりなのに褒められてしまった。
『誰かさん』ってお前のことだよ!お前が振ってきた仕事で痛い目にあってんだよ!
それとも、わざと気付かないフリしてんのか。この話を進めたら余計からかわれそうだったから、口には出さなかった。
「聞き間違いじゃなけりゃ、確かあんた最初、利益は50万くらいって言ったよな?何があったら120万が70万も減るんだよ」
「そりゃあ、君。君がワグナー機関に喧嘩を売っちゃったから、僕が助けてあげようとしてるんだよ。手間賃として70万くらい貰っておかなきゃ、あんまり大したことは出来ない」
「…ちょっと意味がわからないんだけど」
とか言いつつ、俺はなんとなく、この話のオチが見えてきていた。
それでも何とか縋りつく思いで、店主が別の、希望に溢れた言葉を言ってくれないかな、と期待して見たのも空しく、店主は
「だからさ、君。天下のワグナー機関の『縄張り』に入っちゃ、ちょっとどころじゃなくヤバイってこと、わかんないかな?君、取って来ちゃったじゃん、ワグナー機関が大切にしてる雑草」
と、無慈悲な言葉を無邪気に、茶化すように言った。俺は天井を仰いだ。
……………取って来ちゃいましたね!
***
「ワグナー機関が、世界樹の葉の量産化計画を立ち上げてる最中に、世界各国の植物の自生地を調査して『縄張り』にしたって言ったよね?ゴズ渓谷もその『縄張り』の一つなんだ。
ゴズ渓谷が魔力の吹き溜まりになっていて、そこら辺の雑草が結構な魔力濃度になっているという事実は、実はワグナー機関が初めに突き止めたことなんだ。それまでは単なる秘境として一部の冒険者が知っている程度の知名度だったし、魔物もそれなりに強くてなかなか人が寄り付かなかったから、結構マイナーな土地だったのさ。
それが、大雪柱に自生している植物が量産型世界樹の葉の、最良の原料に成り得ることがわかると、ワグナー機関はゴズ渓谷にならず者を派遣して、その他の『縄張り』と同じように、冒険者とか他の無関係な人々を土地から閉め出したんだ。
特にゴズ渓谷は、いやしの雪中花っていう高級な『副産物』もあったからね。花を含む色々な植物の監視のために、特に厳重な見張りが立てられた。国の保護が及ばないからって、やりたい放題だよね」
「いや、そうは言うけどさ…ワグナー機関って、一般的に知られてない闇組織なんだろ?そんな奴らがどうやって『縄張り』なんて主張すんだよ?一発で国にばれるだろ」
「大雪柱に行ったとき、何か変な模様が壁に描かれてなかったかい?ミミズがのたくったような、剣で引っかいた感じの」
「ありましたね!」
例の『白ニンジャ』を追って走っているとき、ちらっと見たあの壁の落書き。あれがワグナー機関のマークだったのか。
「あれ、何のマークなんだよ」
「ドラゴンらしいよ?アストルティアじゃない異世界に伝わる、伝説の賢竜だってさ。ワグナーという名前も、そのドラゴンから取ったそうだ」
「…あれ描いたやつ、絵へったくそだろ」
「僕は他の土地のマークを見ただけなんだけど、確かにへったくそだよねえ。僕も絵心がある訳じゃないけど、あれは人に見せるレベルのものではないよ、本来は」
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4475510/)