「そこで、僕の『裏クエスト屋』の出番だ。君の雑草で得られる利益から70万払ってくれれば、色々手を回してあげるよ。本当なら100万欲しいところだけど、今回はまけとくよ。闇市場で出品者名を匿名にしたり、大雪柱に残ってるだろう君の足跡とか爆薬の殻とかを片づけたりね。この支払を含めて、君の最終的な利益は50万って訳」
俺は心の中で舌打ちした。
足跡消しや爆薬の片付けくらい、自分でやってくればよかった。そうしとけば、少なくともこの場面で値切り交渉くらいは出来たろうに。
裏だろうと表だろうと、バザーじゃ出品者名を明記するのは大原則だ。匿名で出品することなんて本来出来ない。それが出来るのは恐らく、このおっさんを経由した場合だけだ。
しかし、ここで証拠隠滅の依頼をしなければ、このおっさんはさっきの雑草を、普通に俺の名前で闇市場へ出品するだろう。それでは、ワグナー機関側にあっさり俺のことがばれてしまう。最近では、足跡だけでその持ち主の体格がわかってしまうほど技術が進歩したんだ。大雪柱に侵入した奴の体格がわかっている中で、大雪柱の植物を闇市場に出品した奴がいるなんて知れた日には、すぐに俺のことを特定してしまうだろう。そうなれば袋叩きである。
無理ゲー過ぎる。このくそ忙しい中で、そんな訳の分からん連中に構ってられるか。
かといって、出品しないという選択肢はない。今は借金返済へ向けて、ちょっとでも多くの金を稼がなきゃならない。本来得られた筈の100万の損失をどうにか埋めなければ、きょうから4日後までに500万という金額には届かないのだ。
「どうだい?この商談、受けてくれるかな?」
店主は柔和な笑みを浮かべながら、俺に聞いてきた。
俺はどうにか抵抗の一手がないか頭を巡らせたが、この店主が提案している取引以上の上手い手は思いつかなかった。だから渋々、俺は
「受けるとも。受けるしかないだろ。このクソオヤジ、全くとんでもない仕事を振ってくれたぜ!」
と負け惜しみを混ぜつつ言った。
「なら、商談成立だね。毎度あり」
俺の罵倒を華麗にスルーして、裏クエスト屋の店主は人の良さそうな笑顔で、嬉しそうな声でそう言った。
どうやら、俺はまた、この男の手のひらで転がされてしまったようだ。非常に面白くないと思って、俺は渋い顔をした。
「そんな嫌そうな顔するなって。まあ、これが裏クエストをやる醍醐味だよ。クエスト1個からこの世の闇とかドロドロした人間関係が見えてきて、なかなかワクワクしてこないかい?」
「するか!本当に、夢がないなあもう…世界樹の葉すら、闇商売にかかればただの欲望の手段かよ」
「ハハハ、これでわかったろう?この世の全ては人の損得で出来てるのさ。誰かが得すれば誰かが損する。誰にも迷惑かけずに上手い汁をすすろうなんて、愚か者のすることだよ、少年?恨みの回避方法を考えるくらいなら、堂々と敵を出し抜く方策を考えた方がよほど有益さ。世の中、賢しく動ける者が得をするよう出来ているんだよ。
なに、僕は厄介ごとの1つや2つで、上手い商売を見送る程愚鈍ではないからね。あの雑草はありがたく頂戴しとくよ。出来るだけ高値で売りつけてあげる」
「ああ、もう好きにやっちゃってくれ…」
俺はその店主の台詞が、クエストを受けた初日に「恨みを受けないクエストがやりたい」と言ったことへの返事の続きだと気付くまで、ちょっと時間がかかった。
始まりは「いやしの雪中花」という、現代に残った秘宝(?)を探してゴズ渓谷に入ったというのに、終わってみれば腹黒い商売の片棒を担がされてしまった。
店主の言う通り、本当にこの世は人の損得だけなのだろうか?どこかに、純粋に手に入れた人に真っ白な栄誉を与えてくれる、きれいな財宝は存在しないのか?
俺はそんな青臭く、釈然としない気持ちを抱えつつ、店主と仕事依頼の手続きを続けた。
クエスト1個受けるたびに、論理の通じない相手に命を狙われる。そんなのやってられないぜ。
いつぞやの英雄の物語みたいに、人間からは誰の恨みを買わず、八方丸く収まる商売話。
無いとはわかっていても、夢見るぐらいは許されないものか。
***
返済計画 進捗状況
0日~3日目 金策集計:
裏クエストクリア報酬 150万G
移動中に獲得した素材の利益 1万2千G
0日目時点の残金 100万G
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合計 251万2千G
7日目支払予定金額 500万G
目標金額までの残り 約249万G
(その3・了 第1エピソード「雪が抱く偽物の奇跡」完了)