「やあやあ用心棒、相変わらず辛気臭い顔してるねえ。儲かってる~?」
などと、借金取りが俺に話しかけてきたのは、俺がガタラズスラムの裏クエスト屋を出てきた昼下がりのことだった。
俺が辛気臭い顔をしていたとしたら、それは間違いなく直前まで裏クエスト屋の店主と話し合っていた「商談」のせいだろう。
ゴズ渓谷の「霊草」の売却金、本来は120万ゴールドもの大金になるはずだった俺の配当は、結局ワグナー機関との厄介ごとの後処理のせいで50万にまで減ってしまった。
あの野郎、あんだけ頼み込んでびた一文も負けてくれやがらなかった…クエスト自体は失敗してしまった手前、元々値段交渉は俺の方が不利ではあったんだが、やっぱり面白くない。後処理に手厚いって意味では確かにありがたい存在ではあるが、それにしてもどうも手のひらで踊らされている感じがする。何かしらの弱みを握らなければ、こういう交渉事じゃやられっぱなしだ。アイツもいずれギャフンと言わせたいものだ。
ともかく、「商談」が思いっきり店主の思惑通りに進んでしまって、かなり面白くない気分でガタラズスラムを歩き、岳都ガタラの表通りとつながった狭い通路まで来ていた。
そんなタイミングで、まるで不意打ちのように、あの女 - 件の借金取りが俺の目の前に現れたのだ。最悪とは言わんでも、少なくとも幸運と呼べる要素は一個もないイベントだ。
何しろ、俺はこの女に対して約3億ゴールドもの膨大な借金を抱えているのだ。慎重に言葉を選ばなければ、すぐにでも俺の首が吹っ飛ぶ。
しかも、文字通りに。
「…ぼ、ぼぼぼちぼちでんなあ~?お姉様の方こそお加減いかが?…っていやいやいや、待て待て、なんで今来るんすか!?返済期限まだですよね!?まだ4日ありますよね!?まさか期限早めちゃったりしちゃったりしないですよね!?」
俺は借金返済を、この借金取りが課す期間内に、言い値通りの大金を用意するという形で行なっているのだ。例えば「3日で100万ゴールド」とか「1日で30万ゴールド」とか。今回もそれらと同様のノリで、「1週間で500万ゴールドを用意しろ」という、わりーときつい課題を命じられているのだ。
この課題を命じられたのは3日前の真夜中のこと。そこから1週間後に現金引き渡しとなると、現時点では3日と半日程度の猶予があるはずだ。そのスケジュールに合わせて今必死で裏クエストに励んでいるというのに、ここで現金を引き渡すなんて話になったら目も当てられない。まだ全然目標額に届いていない。
ドワチャッカの貧乏鉱山・アクロニア鉱山送りにせず、こうして金策手段自体は自由意志に任せてもらえている分、俺は借金持ちにしては冗談みたいにいい身分だろう。その代わり、俺は借金取りには一切頭が上がらない。期間の延長とか返済額を安くしてもらうとか、そんな交渉事は恐ろしくて口にも出せない。そうせざるを得ない致命的な弱みを、この女には握られているのだ。
「へっへっへぇ…さて、どう思うよ?ここんところは随分忘れっぽくなっちまってねえ、覚えてるんだったら教えてくれないかな?」
「3日前の真夜中に確かに『1週間で500万用意しろ』って言ってましたよ!あんとき酒も入ってませんでしたよね!?なんで覚えてないんすか!?」
「あたしはよく覚えてないなあ、1週間なんて随分余裕持った期限決めてたっけねえ?もっと早く用意しろって言ってなかった?例えば…3日後とか?」
「それ今日じゃないすか!あんまりですよ、話が違いすぎます!」
「へ~え…払えないんだ?1週間で500万用意するって言っている割には、現時点でもう全然稼げてないんだ?さぼってるんならあんた、借金持ってる自覚が全然ないんじゃないの?」
「んなわけあるか!必死こいて稼いでるわ!」
「あ~らあら、随分元気がいいこと。稼げてるなら、別にそんなしょぼくれた顔する必要なくない?何だかウソ臭いわねえ、実は遊んですぴんかんとか、情けない体たらくさらしてるんだったら、こうやってあんたを一人ぶらぶらさせることもなかったかな~…」
そう言う借金取りの目は、ぎらぎら光っていた。
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4634118/)