気まずい時間が10分程度過ぎた後、まず俺が頼んだ料理3品がテーブルに運ばれてきた。もう10分すると、借金取りのステーキも運ばれてきた。
お互いに自分の食事をもそもそ食い始めたあたりで、ようやく借金取りが口を開いた。
「それで?あんた最近はどうやって金稼いでんの?最前カイザードラゴンなんて名前が出たけど」
おお、クエストの話だ。よかった、化粧品の話とかだったらダンマリ決め込む羽目になるところだった。俺は内心安心しつつ、当たり障りない程度に、今回のクエストのことをしゃべり始めた。
「そりゃまあ、目下は裏クエストで。今回はゴズ渓谷のお宝、いやしの雪中花を取ってこいって依頼だったんすよ。そうでなきゃカイザードラゴンてえ化け物に勝負挑んだりしませんがな」
「へ~え、そりゃまた随分な無茶やったもんだねえ。で、倒せたの?」
「モチのロンですたい!向こうずね蹴りつけたら、泣いて巣に帰って行きましたよ!」
「ウソだろ」
「ハイスミマセン、ウソです。左腕を折ってまでして、目くらましして逃げてくるのが精いっぱいでした」
「ハア~なっさけないねー、たかがドラゴン公程度にその有様なんて。あたしなら、野郎の目玉にメラ撃ちこんですぐ終いにするとこよ。呪文使えない奴は何しても鈍臭いねえ」
そう言ったそばから、借金取りは俺の皿に手を伸ばして、手羽先を一個取っていった。
おいおい、あんたまだステーキ食ってる最中だろ…と言おうとして借金取りの皿を見ると、ステーキがキレイに消えていた。
…もう胃袋に収まったのか…こいつの食い意地については、もう何も言うまい。闇稼業人の性かなんかで、飯を食うのが速いんだろうとか、強引に納得することにした。
「そんなこと言えるのあんただけだろ。レベル90相当の敵相手取る冒険者なんて一握りですがな…あ」
ゴズ渓谷の話をしていて、一個思いついたことがあった。
「ん?なにさ」
「そうだそうだ、こういう手があったな…ねえお姉様、ちょっとした商談があるんですが」
「…商談だあ~?」
借金取りは胡散臭いものを見る目を向けて、いぶかしげな声を上げてきた。普段から俺のポンコツぶりを散々聞いてんだから、そりゃまあそうだろう。
「いや、あの、汚いものを見るような眼はやめてください。ちょっと最近耳寄りな情報を仕入れましてね~、それを小金と引き換えにお耳に入れてあげたいなんてことを考えまして」
当然の話ながら、億単位の借金を真面目に働くだけで返そうと思ったら、一体何年かかるのかわからない。だから俺は普段から、クエスト以外にも何かしらの話題を集めて、大きめの商売ができそうなネタを探して借金取りに売るということを続けていた。
俺一人の稼ぎなんて知れた規模のものだが、アストルティアの世界各地には色々な商売のタネが眠っている。それらのタネを上手いこと拾っていけば、俺個人の肉体労働よりは手っ取り早く稼げるだろうって算段だ。
正直なところ、この努力が実を結んだことはこれまでのところないのだが、今回はちょっと自信があった。
『耳寄りな情報』とは他でもない、つい1,2時間前に裏クエスト屋で聞いてきた『世界樹の葉の量産』のことだ。世界に出回っている世界樹の葉の大半は、実は『ワグナー機関』という闇組織が大量生産した模造品という話。
あのネタを表の新聞社か何かに持ち込めば、結構なスキャンダルになるだろう。「混乱あるところに金の香りが臭い立つ」という言に従えば、このネタを元にして大金を稼ぐチャンスもあるはずだ。この情報なら、借金取りだっていくらか支払ってくれるだろう。
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4695380/)