「ふ~ん…先に中身言ってみろよ」
と、借金取りは俺をジロジロにらんできた。
「いやいや、まずお金を少しばかり…」
と俺は勿体付けた。ネタをちらつかせて、なるべく多く金をゆすり取ってやろう…!という、なんとも小物感溢れる悪だくみである。
「おいおい、あんまり自分でハードル上げるなよ。金を先にやって、『世界樹の葉量産』なんて言い出したら焼き払うぞてめえ」
「………………………」
あっさり看破された。俺の顔面から汗が噴き出る。
「おい、図星してんじゃねえよ。まさか、あたしがその話を知らないとでも思ったわけ?何年この業界生きてると思ってんの?っか~、バカな子だねえ~…」
借金取りは本格的に冷たい目線を向けてきた。
「いや、あの、ほんとやめてください、目糞鼻糞虫見るみたいな眼で見ないでください」
「事実じゃねえか。微塵の酌量の余地もなく目糞鼻糞虫だな、お前」
「キャーッ恥ずかしい!」
俺は乙女の如く、赤面した顔を両手で隠した。
そういえば、裏クエスト屋の店主も「裏業界では有名な話だ」って言ってたな…そりゃあ、もろの裏業界人である借金取りも知ってて全然おかしくないわけだ…直前に知ったことを自慢げに話そうとして、ひどい赤っ恥かいてしまった…
借金取りも呆れてモノが言えないという風に、オーバーに首を振った。
「まーったく、次から次へとくだらないことばっかり思いつきやがる…お前もっと実益のあることを考えろよ」
「あー、まったくその通りなんですがね…実益のあることを考えようとすると途端に頭が痛くなるんすよ。バカやってみたいってことは湯水の如く出てくる割にはですよ。自分でもポンコツとは思いますがね」
これは何の打算もない本音だ。
何か現実の役に立つことを考えるのは、妄想に走るより遥かに難しい。役に立つことを考えるには、理屈を完備しなきゃならないからだ。理屈を整えるのは、頭を花畑にして空想にふけるよりずっとエネルギーを使う。くだらないことを膨らますのに慣れきった頭では、有益なことを考え出すなんて専門外もいいところだ。
そんなポンコツ頭だからこその冴えない現状なのだ。
「何か変な数字が頭に浮かぶってことは?」
「え、ん、お?いや、別に何も。数学は不得意だったもので、頭の中には数字なんてめっきり出てきませんよ?お金以外」
「…聞いたあたしがバカだった…」
「ああ、あとサイコロ賭博の出目とかだったらいくらでも」
俺の軽口を遮るように、ドカッという鈍い音が響いた。借金取りがテーブル越しに、俺のすねを蹴ったのだ。
「いった!何するんすか!」
「泣いて巣穴に逃げ帰ってほしいから蹴った」
「俺はカイザードラゴンじゃありませんよ!?」
借金取りはおっかない顔で俺をにらんだ。
「ほんともう、てめえ、ふざけたことばっか抜かすといい加減尻子玉抜くぞ。この状況でよく賭博の話なんか出せるな」
「尻子玉!?何それ怖い!サイコロ賭博は冗談ですよ…」
尻子玉…なんだっけ。エルトナの「妖怪」が引っこ抜く、ヒトの精力の塊みたいなもんだっけ。こいつならやりかねない。おっかねえ。
さておき、平和な雑談だった。傍目から見たら、とても借金持ちのダメ男と、その借金を取り立てに来た女の会話に見えないだろう。
それこそが彼女の狙いだったということにも気付かず、俺は最初の緊張は何処へやら、次第に借金取りと打ち解けていけてるような気になっていた。
この後すぐ、それが勘違いであるということを思い知らされるとも知らず。
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