だからこそ俺は借金取りに怒った。俺を見くびり過ぎだ。家族事情を丸裸にして揺さぶって、俺を服従出来ると思っているのか?だとしたら、それはとんだ見込み違いだ。俺は火が付いたぞ。
やっぱり、借金取りと打ち解けたと思ったのは、俺の勘違いだ。
あいつはどうしようもない俺のカタキだ。不倶戴天の天敵だ。いずれ万難を排して、奴を地獄の底へ叩き落としてやる。
決意(殺意)も新たにしたところで、俺は食事の勘定を済ませることにした。
あれだけの騒動があったところで、あくまで今回の食事費用は俺持ちである。ツケにしといて、レシートを借金取りに叩きつけてやりたくもなったが、俺はツケをしない主義だ。それはそれ、これはこれというやつだ。約束は守らなければ。
そんなわけで、周囲の痛い視線を感じつつウェイターを呼ぼうとしてテーブルを見渡した。
四角いテーブルの上には、借金取りの席側にステーキの大皿、中央辺りに借金取りのガラス製のコップ、俺の席側に俺の分の食事が入っていた中皿3つと俺のコップが並んでいた。
ステーキ皿はさっき見た通り、確かにカラになっていた。ステーキ本体にかかっていたソースの残り汁が載っているのみである。
しゃべりながら食っていたからかも知れんが、あの女が食べ物を口に運んでいたシーンを見た覚えがない。
一体いつの間に完食したんだろうか…と、どうでもいいことを考えながら、今度は借金取りのコップを見た。
そのコップの底には、きれいな丸い穴が空いていた。
「………」
さっきとは別の意味で絶句した。
当たり前だが、初めからそのコップに穴が空いていたわけではない。コップの底自体は直径で5㎝ほどの円形だが、穴は直径で2㎝ほどもある。そんなでかい穴が空いてて水がそそげるわけがない。配膳された時点では確実に穴はなかったはずである。
とすると、この穴は俺と借金取りの食事中に空けられたことになる。当然、俺はこんなガラスのコップに一瞬で穴を空ける芸当は出来ない。他の客も特に近づいた覚えはないし、ウェイターだったら尚更やる意味はないだろう。
結論。この穴は借金取り自ら空けたものだ。動機は不明だけど。
あの女、一体何をやらかしてるんだ。どさくさに紛れて酒場の所有物を壊すんじゃない!
ほんっとに意味不明だ。この後に及んで俺に嫌がらせしてきてんのか。
いや、そういえばさっき喧嘩になりかけたとき、テーブルから唐突に大きな音が出た。ひょっとして、あのとき借金取りが何かしらの呪文を使って、このコップに穴を空けたのか?俺の動きを止めるためだけにやったってことか?猫騙し程度の音を出して穴を空けるって、一体何の呪文だ?というかどうやって仕込んだ?
と、内心パニックに陥ったところで、更に悪い事実に気付いた。
穴が空いているのはコップだけではなかった。その下のテーブルまで穴が空いている。
よくよく見ると、コップの穴はコップ内側から外側へ向かって傾斜が付いていた。テーブルの穴も同様で、コップの外側の穴と直径がぴったり合う。全体で見ると、まるでアリジゴクの巣のような形状をしていた。
…って、こんな分析をしている場合ではない。このコップとテーブルをウェイターに見られてみよ。俺は器物損壊罪で即罰金だ。コップはともかく、テーブルまで弁償ということになったら、結構なゴールドが飛ぶことになる。最悪、事務所にしょっぴかれるかもしれない。
「許すまじ借金取り!」とつぶやくと同時に、俺は証拠隠滅に動いた。穴の空いたコップは腰の小物袋へ放り込み、テーブルの穴は俺の中皿を載せて隠したのである。
俺はそのままカウンターまで移動して、そそくさと勘定を済ませて店を出た。店主にはにらまれたが、そんなことに構ってもいられない。多分さっきの喧嘩のことに目が行って、俺のコップ窃盗までは気付いてないだろう。
かくして、俺の散々な昼食は終わった。あんまりいろんなことが起こったから、終わってみたらモノが喉を通ったような覚えがない。
小腹が減っているような気もしたので、宿屋に戻りがけ、駅弁屋でガタラの豚まんを頼んだ。
しょうゆ味の濃い豚まんを食べて、やっと一息つけた気分になった。
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返済計画 進捗状況
3日目 途中集計:
0日~3日目(朝)の貯金額 251万2千 G
3日目(昼)の食事代 - 2千7百 G
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合計 250万9千3百 G
7日目支払予定金額 500万 G
目標金額までの残り 249万7百 G
(その4・了 第1.5エピソード「借金取りと昼飯時」完了)
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4808603/)