この時も店主は、ヒトの良さそうな声で裏クエストの概要説明を行なっていた。
「『何さ』も何も、まあ読んでもらった通りの内容だよ。ある資産家の家に雇われているフリーの衛兵の気を、十数分程度惹いてもらう。手段問わず。殺さなければ戦闘になってもよし。準備が整ったら花火で合図を上げるので、それを確認次第撤退。それだけのお仕事で100万ゴールド払うって」
「うん、そこは読んだからわかった。というかそれしか書いてない」
背景が全然わからんということだ。なんだって『衛兵の気を引く』って仕事だけで100万ももらえるのか。はっきり言ってめっちゃ怪しい。
「うーん…依頼者本人たちの指示で書かなかったんだけど、いいか言っちゃうか。依頼者たちの説明によると、『その日自分たちがその資産家の家に強盗に入るから、その間衛兵たちを誘導しといてほしい』んだって。『コルセットの埋蔵金』って言ったら、多分君も知っているんじゃないかな?最終的にはその埋蔵金の掘り出しを狙ってるってことだよ」
「『コルセットの埋蔵金』…ってあれか、ガタラの海岸線に昔の盗賊団が埋めた埋蔵金があって、その宝の地図が今もガタラのどっかに眠っているっていう噂の」
「それそれ。その宝の地図がその資産家の家に隠されているから、探し出して奪い取ろうって話。今どき埋蔵金なんて、最近の冒険者も渋いとこに目を付けるよね」
「渋いで済むかよ!そんな存在も怪しいもんのために、本気で強盗しようって思ってんのかよ、その連中」
ガタラの海岸線なんて、どこもかしこも古代から現在にかけて掘り尽くされている。何たって強欲で知られるドワーフの住む大陸だ、色んな探検家やら考古学者やらが大陸全体をあらかた掘り返してしまっているから、地上の浅いとこの事情なんかほぼ丸裸にされているんだ。それで「『コルセットの埋蔵金』が出てきた」なんて噂が出てこない時点で、実在するか否かなんて明白な話だ。
「本気も本気よ、いざボディガードたちと戦闘になったら殺害もいとわないって姿勢が感じられたよ」
「おっかねえな…」
「長年その埋蔵金を追ってきて、そろそろ限界も近いっていう話だった。人間やらオーガやらの6人グループだったけど、どーも雰囲気が険悪だったよ。よく知らないけど、チームの協調性か、あるいは何かの支払いあたりが、引っ込みのつかないところまで行っちゃってるんじゃない?」
「ロクな臭いがしないな…報酬金の根拠は?」
「掘り出した埋蔵金の山分け。20人で1人100万は取れる額はあるとにらんでるそうだ。所謂『宝払い』」
「うわぁ怪しい。埋蔵金の換金方法は?」
「さあ」
「雇った連中への支払い方法」
「さあ」
「失敗した場合の補償!」
「さあ」
「お前、よくそんな条件で斡旋引き受けたな!周辺条件ガバガバじゃねえか!なんで根掘り葉掘り聞かなかった!」
「だってすごくおっかない雰囲気だったんだもーん」
「だもーんじゃねえ!」
抜け目ないとは言ってはみたが、店主の対応がかなり雑なところを見て、俺は更に不安を加速させた。
この直前に受注したばかりの『いやしの雪中花の採取』クエストは、依頼の詳細が一部伏せられていたが、報酬金の受け渡し方法や採取場所の指示など、公開できる範囲はかなり詳細に書いていた。しかし、裏クエスト全体を見るとそのくらい詳しく書いている依頼書はむしろ稀で、大半はこの『雇われ衛兵の陽動』クエストのように、めちゃくちゃ説明不足な書き方をしているのだ。俺のような裏クエスト受注者は、報酬金だけでなくて、雇い主が信用の置けそうな人物なのか、受注して酷い目に遭わないかどうかまで考慮して、クエストを受注しなければならない。
裏クエスト屋の店主としては、「払えるものを払ってもらえれば、後はどうやっても構わない」というスタンスを取っている。だから今回のようにいい加減な条件提示をしてくる顧客であっても、必要最低限の部分しか聞かずにクエスト発注を引き受けてしまうのだ。
「どんな怪しい依頼でも引き受けてもらえる」という点で、その界隈ではかなり人気であるらしいが、その劣悪な条件で仕事をしなければならない俺らの身にもなって欲しい。
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4808628/)