何より、店主がつまらなさそうな顔をしている。この男は守銭奴かつ「オモシロ主義」だから、依頼内容が厄介ごとを引き起こしそうであればあるほど、あるいは自分が稼げそうであればあるほどやる気を出すクチなのだ。
店主のつまらなさそうな顔を見ればわかる。これはただ単に「稼げなくてめんどくさい」仕事なのだ。
正直、引き受けたくなかった。
「そうは言っても、単発短期で大金が稼げるクエストなんて、これとあと2個くらいしかないよ。ほら、さっきの『いやしの雪中花の採取』と…あとはこれだな」
といって、店主はもう1枚のクエストの依頼書を見せてきた。
俺の手元には合計3枚の依頼書があった。『いやしの雪中花の採取』、『雇われ衛兵の陽動』と、あと1枚。
「…報酬金は3つ合わせてぴったり420万か…貯金含めりゃ500万には届くが、失敗した場合が怖いんだよな…本当に払ってもらえるんだよな?」
「今から6日後に500万用意できればいいんでしょ?で、手元には100万あると。君がとちりさえしなければ、君のおっかない「借金取り」が言う目標額にはちゃんと届くよ」
俺は例の暴君、ウェディの「借金取り」の美人な顔立ちを思い浮かべて、つい身震いしてしまった。
酒に酔った俺の前に借金取りが現れ、「1週間で500万ゴールド用意しろ」と宣告されたのは昨日の真夜中のこと。首が回らないその日暮らしの貧乏冒険者が、何の因果か3億ゴールドというとんでもない借金を背負ったせいで、そんな無茶な命令を大真面目にこなさなければいけない生活を強いられているのである。
仮に失敗して500万用意できなかったら、あの恐るべき戦闘力を誇る借金取りにどんな目にあわされるか、想像もつかない。なんとしても現金の用意を急がなければならない。
「いや、額面上はそうだけどさぁ、その雇い主の連中がちゃんと支払い能力あるのかってとこが既にもう…」
「まあまあ、やってくれた場合の支払いは僕が保障するよ。裏クエストを発注する時点で、ある程度は彼らも覚悟してるだろうからね。報酬金が払えないってなった場合は…」
店主はそれまでの柔和な笑みを消して、えらく鋭い表情で
「体『から』支払ってもらう」
と言った。
思わず鳥肌が立った。私設部隊を持っているという噂もある男だから、恐らく本気だろう。この男とは喧嘩したくない。
「…とまあ、冗談はさておき。どう言おうと依頼は引き受けるつもりなんでしょ?」
「えーえー、引き受けますとも。それしかないんでしょ?やりますよやりますよ。涙を飲んで引き受けますよ」
「毎度あり。じゃあいつも通りその契約書に名前書いといてね…あと、この依頼複数人受注できるようになってるから、今回は協力者が付くよ。現地集合したら、自己紹介も兼ねてよく作戦を練っておきなさい」
「協力者?いんの?そりゃいいや、一人で頑張るよりはまだましだ、愚痴くらい聞いてくれるかな」
「仕事前に愚痴るのはやめときなよ…というか彼、ヒトの愚痴に付き合える度量はないだろうなあ」
「ああ、もう先に受注してる奴がいんのか。どんな奴よ?」
「開口一番『白雷の怪傑と呼んでくれたまえよ!』と言ってきた。わかり易いナルシストだね。白いタキシードを着たウェディの男だ。顔の造形は頬が若干こけている以外は普通。背は君の頭一つ上くらい。あとは…」
と、店主は苦笑いを浮かべつつ言った。
「熱狂的な女性『信者』だ」
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4873092/)