「…いや、キリン関係なくないかこの話題?別にキリンが人さらいやってるとは言ってないぞ?」
「えー?あー、まあ言われてみればそーね…都市伝説ってみんな似たりよったりなイメージあるから、テキトーに口走っちゃった」
「なんて雑な理解なんだ…」
と、俺は呆れた。
「いずれにせよ、やっぱり僕らには関係が無いことだったね。僕然り君然り、ちょっとした借金の支払いに悩まされてる時点で、村落襲ったり暗殺者に狙われるような大人物の器には全然事足りないよねー。小物の僕らが大物の悩みを抱いたところで何にもなんないよ」
怪盗もどきは相変わらず能天気な調子でそう言った。
「…確かに、強盗の下働きなんてセコい悪事働いてる間は、キリンに狙われる心配はないだろな」
情けない話だなあとは思った。
「そーそー、人生楽観的に構えてなきゃやってられないよ!仕事も趣味も女遊びもポジティブポジティブ、そーすりゃなんでも上手くいくって」
「そんな簡単にいくわけねーべよ…おっと」
喋りつつ時計を見てようやく気付いた。
現在、午前12:10。
とうとう、作戦決行の時間がやってきた。ひと仕事始める前にしては、我ながら中身のない会話だった。
「ああ、ついに勤務時間か」
と、俺は茂みを抜け出しつつ言った。同じく茂みを抜け出した怪盗もどきは、
「ワーオ、ついに僕の華麗なるスキルの数々を魅せる時間が来たんだね!?腕がなるなあ〜」
と無邪気なことを言っている。
「そりゃいいな、なるべく派手にバカバカしくやってくれよ。いっそバカを晒すくらいやってくれて構わないから。陽動だし」
「そ~させてもらうよ!君は僕の後ろに立って、紙吹雪でも吹いててくれ!今夜の主役、つまりこの僕を大いに引き立ててくれたまえよ!」
「紙吹雪はないから花火投げてやるよ」
そしてそのまま焼死するが良い。
「ほんじゃまあ、一丁バカを晒してくるか」
深呼吸して、俺と怪盗もどきは揃って一言呟いた。
「さあ、仕事の時間だ」
***
【アイザック(オーガ男性 48才 職業:プライベート衛兵)の証言】
「ええ、その日は丁度新顔のダグラルと初めてコンビを組んだ日だったわけですよ。やっこさん、苦しい訓練を乗り越える根性はある奴なんですが、まー短気短気な困った奴でね。あたしも昔は似たような短気な性格だった手前、あんまり人のことは言えませんがね。協会出の執事さん方、今はプライベートコンシェルジュって言うんでしたっけ?あたしらも彼らと同じで、普通は訓練を終えた時点で皆独り立ちするもんなんですが、ダグラルくらいド短気だと何が起こったときに上手く対処できないだろうってことで、上役の命令で教育係のあたしがしばらく近くで様子を見ることになったんです。しょーもないでしょ?こういう役柄やってると、最近の若者の甘やかされ具合見る羽目になっちゃって、『最近の若いモンは~』なんてつまんない口上が出てくるようになっちゃう。ああ、ついこないだまで若い立場だったってのにこりゃあいかんなあ、ジジ臭いなあ~なんて思うわけですよ…って、ああ、あの日の証言でしたよね本筋は。いけないいけない、脱線し過ぎては貴女を困らせてしまうね。
ともかく、その日は雇い主のコールタールさんのお宅で警護に当たってる日でした。上弦の月がキレイな夜でしたよ。もうちょっとで退勤時間だ~なんて考えてた矢先、なんだか妙な2人組があたしたちの前に現れたんですよ。片方は白いタキシードに白いシルクハットを被った若いウェディ、もう一方は…なんていうか、昔のマンガに出てきそうな、黒づくめに緑色のほっかむりを頭に巻いて、サングラスをかけたもうちょい若い人間の男の子でしたよ。まー派手な恰好の連中でした。
で、そいつらが何やってたかというと、なんとこんな深夜で花火やってるんですよ、花火。平日の夜ですよ?んで、酒飲んでんのか大声でケラケラ笑ってるんですよ。『わーはははは、たーまやー』『かぎやー』って感じでね。なーにやってんだあいつらって具合ですよ。
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4873106/)