遠目で会話聞いてると、やっぱり益体の無い話しかしてないわけですよこれが。
まず、人間の子が『おいおいヤン坊、たまやかぎやって打ち上げ花火にしか言わねえんじゃねえのー?』って言うでしょ?
で、また一方のウェディが『知らないよマー坊、花火だったら別になんだっていいんじゃないの?大体かぎやってどーこにあんのー』って答えるわけですよ。
『俺が知ってるわけねーやあはあはー、ぎのくにやー』てぇ続けてるところ見るに、ああ、ありゃあ酔ってんな、面倒なこったって思ったんですよ。あとあとの状況を見るに、実態は違ったんでしょうがね。
で、流石に深夜に騒がれるとご近所迷惑になるんで、見かねたダグラルが険しい顔でその2人組に近づいていったんですよ。あたしは、彼がどう酔っ払いを片すのか見守りたかったんで、そのままコールタールさんの家の門で立ってました。ダグラルが言い訳の立たない暴力沙汰起こしたらたまんないから、すぐに駆けつけられるよう準備はしとりましたがね。
で、ねずみ花火…って言うのかなあれ?あの、丸い円状に火吹きながら跳ねる奴。それで遊んでた2人組の傍にダグラルが立った辺りで、ダグラルが注意を始めるんですよ。
『そこのお前たち!住宅村で花火を持ち出すのは禁止されている!!直ちに消火したまえ!!』
結構な剣幕で言ったんですが、例の2人組は全然怯える様子もなく、『ええー、いいじゃんかよーこんくらーい。明日は華金だよーゴーセーだよー、休みん前の日は騒いでいいんだよー?』って人間の方が言ったんですよ。
勿論、翌日は華金なんかではなくて木曜だから、いや華金であっても、別に深夜の住宅村でハメを外していい理由にはならんですが、尚更放っては置けない有様でしたよ。暗くて顔はよくわからなかったですが、恐らく顔が真っ赤になるまで飲んでるな、と思いました。
離れて現場を見ていたあたしがちょっと眉をひそめるくらいだったから、ダグラルからしたら尚更不快だったでしょうねえ、すーぐに声を荒げ出しました。
『明日は木曜だ!!君らがこんな深夜で花火でどんちゃん騒いでいい道理はない!!』
ダグラルも人間の子たちとはまた別の意味で顔を真っ赤にしてたでしょう。その時点で既に、普通のヒトだったらたじろぐような剣幕でしたよ。
しかし、ヒトを注意する立場の衛兵が短気というのも、場面によっては酔っ払いどもにバカにされかねないので、必ずしも効果的ってわけではないんですよ。残念ながら、今回の酔っ払いたちは、そのタチの悪い部類だったようでね、ダグラルの怒りようを全く意に介さない様子で、相変わらずヘラヘラしてました。それどころか、人間の子が懐をまさぐって、
『構わん構わん、そーれもういっぱーつ』
と、何かをばっと取り出したんです。
花火を投げられたら危ないと思ったのか、ダグラルが身構えたんですが、人間の子が取り出したのは線香花火でした。火も付いてないから、何も危険なものではなかったんです。
後ろから見てるだけでも、ダグラルの困惑した様子が伝わってきました。それが余程面白かったのか、ウェディの男と人間の子が2人揃って、
『やーいやーい、衛兵さんがびびってやんのー』
『ガタイいいのに繊細でやんのー』
とケタケタ笑いました。明らかにダグラルをバカにしているんですよ。
あたしがやられてもカチンと来る態度でしたので、ダグラルなんかは言うに及ばずです。住宅村中が起き出してしまいそうなバカでかい怒声を上げましたよ、
『いい加減にしろ!貴様ら、今何時だと思ってんだ!!!貴様らと違って、この住宅村には日夜毎日慎ましく働いてる立派な方々が一仕事終えて寝ようとしているんだ!!毎日ふらふら遊んでいる不埒な輩が、真面目な働き者の安眠を邪魔するんじゃない!!!これ以上騒ぐなら貴様ら、牢に連行するぞ!!!』
ってね。根が生真面目ですからねえ、そのときの彼らのようにちゃらんぽらんにしてる輩がただでも気に入らんかったんでしょう、中々辛辣なことを言いましたな。実際、そのウェディと人間の2人組の行動も目に余るものがあったから、腹に据えかねて当然です。怒りに任せるのは衛兵としては失格ですがね。そこはま、新人ということで目をつむっておきましょう。
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