作戦失敗を知らせる(知らせているつもりらしい)花火を見た直後、その花火の下、つまり豪邸の裏手側から、野太い男の声が聞こえてきた。
「キラーマシンが出てきやがったああああ!!!」
「こんなん聞いてねえぞおおお!!!」
それ以外にも「うわあああああっ」「ぎゃあああああ!」といった如何にもらしい悲鳴がいくつか聞こえてきた。少なくとも6、7人分の
悲鳴が聞こえるあたり、強盗団本隊の連中で間違いないだろう。
というか、聞き捨てならないことが聞こえた気がしたぞ?キラーマシンだと?
「はぁっ!!!?」
と、俺と怪盗もどきは叫んだ。
「ちょっと待てちょっと待て、何でキラーマシンなんか出てくんだ!この町ぜんっぜん生息範囲被ってねーだろ!」
「僕が知る訳ないだろ!!」
「やべーぞ!俺らロクな武器持ってねえ!キラーマシンとぶつかったら3枚下しにされるぞ!」
「ファッ!!?それはまずい、女の子に刺される以外のしに方なんかまっぴらごめんだよ!!」
なんだコイツ。しれっととんでもない願望吐いてやがる。コイツなりに焦ってるってことなんだろうか。
キラーマシン。確か、戦闘推奨レベルは55くらいだったろうか。言わずと知れた戦闘機械の代表である。
こないだ相対したカイザードラゴンよりは遥かに格下だが、中堅あたりの冒険者を何人も葬っている、ある意味現実味のある怪物だ。
盗賊レベル60前半の俺から見たら格下に見えるが、それは片手剣とかまともな武装があった場合の話だ。手持ち花火とか多少の小道具しか持ってない今キラーマシンと戦ったら、命がけの綱渡りになることは確実。怪盗もどきだって似たようなものだろう。
冗談じゃない、強盗の片棒担いで簡易牢にぶちこまれた挙句、キラーマシンにいじめつくされて死ぬなんてまっぴらごめんだ。とっとと逃げ出さないと。
俺はさっきから簡易牢のカギを針金でガチャガチャいじっている怪盗もどきを急かした。
「オイッ急げよ、早くカギ開けろカギ!」
と言った直後、ぷちっと何かが切れる音がした。
「…」
何も言わない怪盗もどき。嫌な予感がする。
恐る恐る怪盗もどきの手元を見ると、案の定針金が真ん中からちぎれていた。指の間から短くなった針金が覗いている。この短さでは小手先で細工を施すこともできまい。
「…………」
「………ち、ちなみに針金の予備は…」
「…持ってない……」
「何しくさってんだてめぇ!!!」
「君が後ろから急かしたせいだろーーー!!!??」
脱出が一歩遠のいた苛立ちから、取っ組み合いを始める俺と怪盗もどき。2人とも本気で殴り合う気力も胆力もない手前、ポコポコとなんだか情けない音を出しながら、軽いパンチとか蹴りとかで応酬した。我ながら痛々しい光景である。
暫く気の入らない取っ組み合いを続けてると、カギのかかった扉から突然、バキンッという金属質な音が響いた。
突然響いた音に驚き、2人そろって
「えっ」
「はれ」
と間抜けな声を出して、簡易牢の扉を見た。すると天の采配か何なのか、扉のカギが鉄格子ごと切り落とされていたのである。
鉄格子の前には、見慣れない黒づくめの小男が立っていた。
俺の着ているダボダボなコソ泥服とは違い、体にぴったりと貼りつくような洗練されたデザインの運動服をまとっていた。顔も首元から頭上にかけて覆面で覆われており、鋭い眼光が覗く目元しか判別できない。「小男」とは言ってみたが、見ただけでは男なのか女なのかもわからなかった。
暗くて肌の色は見えなかったが、背からは半透明の羽がはみ出しており、かろうじてその人物がエルフであるということはわかった。
右手には、銀色に輝くかなり細めなダガーが握られていた。きっとこの短剣で鉄格子を切り落としたのだろう。ダガー自体もよほどの業物だろうが、いくら切れ味が良くても鉄を一瞬で両断するのは簡単なことではない。ダガーの使い手の短剣術も、相当に巧みなものだと伺い知れた。
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/5120423/)