「そうだ、強盗団の連中はどうなったんだ?おい、屋敷の裏手に回るぞ!」
「えーっ、もう普通に逃げても良くない?牢の外に出れたわけだし。かわいい女の子もいたし」
と怪盗もどきが乗り気じゃないことを言った。俺もそう思うが、そういう訳にはいかない。
「バカヤロ、このまま強盗団の連中がキラーマシンにやられたら、報酬金金払う連中がいなくなるぞ。店主のあの様子を見るに、絶対前払いとかされてねえもん。助けるのは不本意だが、せめて連中が逃げるチャンスは作らなきゃならねえ」
「うわ、それは一大事だ。流石に僕もここまで来てただ働きは嫌だなぁ」
「だろ?ホント嫌な仕事だよ。『宝払い』なんてロマン以外は周りへのメリット皆無だな」
「じゃあまあ…急ぐしかないか。行くぞコソ泥くん!」
と言うと、怪盗もどきは走り出した。俺も後を追って、屋敷の裏手側を目指して走り出した。
コソ泥くんなんて呼ぶな、とは言う暇もなかった。
***
屋敷裏手に回ると、そこは散々たる光景だった。
屋敷の前と同じくらいの広さの広場で、6人の男たちが逃げ回っていた。内訳はオーガ2人、人間3人、ドワーフ1人。おそらく全員、例の強盗団のメンバーだろう。そいつらの全員が全員、悲鳴を上げて逃げ回っていた。
なぜ悲鳴を上げていたかというと、それはキラーマシン2体に背中から追いかけ回されていたからだ。あの青い機体に無機質な赤い目、パイプの両腕にはサーベルとボウガンという恐ろしげな容姿は、襲われる側の恐怖を誘うのには十分。俺が強盗団の立場でも、絶対悲鳴を上げていただろう。俺らにとってキラーマシンとは、それ程危険な魔物なのだ。
俺と怪盗もどきはすぐには飛び出さず、屋敷の影から様子を見ていた。
「…ほんとにキラーマシンだね…」
「うわー最低…モノホンのキラーマシンだ…なんでランガーオ山地とかに住んでる奴がガタラくんだりまで移動してきたんだよ…あ」
「なんか心当たりがあるの?」
「…ヒトの命令を聞くようチューニングした機体って可能性はあるかもしれん。違法だが、そもそもキラーマシンって兵器として開発された魔物だし」
「ソレがなんで一般住宅街にいるの」
「ぼでーがーど、とか」
「…えー、そんなレベルの金持ちなの、ここの主人」
「それぐらいしか説明つかねーだろーよ、ほんと最低だ…あ、今ひとりぶった切られた」
くっちゃべっている間に、人間の男がキラーマシンの1体に追いつかれ、背中から斬られてしまった。ぎゃっと叫んだ男はそのまま倒れこみ、気絶してしまった。
気絶した男には目もくれず、キラーマシンはまた別の男に襲いかかっていった。この調子では、強盗団が全滅するまで時間の問題だろう。
ふと、妙なものが目に入った。強盗団唯一のドワーフが真っ白い中型犬を抱きかかえているのである。
犬。すなわち金持ちの象徴。
魔物が世界を席巻して、馬や牛といった野生動物がめっきり減ってしまった今、犬もまた貴重な生物だ。それをペットとしていち家族が所有するのは、これまたわかりやすい金持ちアピールである。
当然、そのドワーフが犬のオーナーである訳がない。考えられるとしたら、この屋敷で飼われている犬をドワーフが連れ去ったといったところだろう。
なぜそんなことをしたのか。犬が強盗団の目的に叶う存在であるからだろう。例えば、首輪に宝の地図が隠されているとか。
「あの犬が臭いな」
「え、うそ。鼻良過ぎない君?」
「…ボケだよな?」
「え?あ、ああ、犬が怪しいのね。わかったわかった」
「ホントかよおい、馬鹿だとは思ったが、マジで頭まで鈍いんだったら置いてくぞ」
「バカだと思ってたのかい!?事と次第によっては許さないぞ!…まあいいや、どうやって連中助けるの?」
「どうやってってそりゃあ、煙幕とかでキラーマシンの気を引いて、強盗団の奴らが逃げられる隙を作るしかなかろうよ」
「奴らレーダー持ってるし、煙幕効かなくない?」
「え?えーと、それはだな…」
ヤバイ、煙幕以外の手を考えてなかった。そりゃそうだよな、マシンに視界遮るだけのアイテムが効く訳ないよな。
なんか別の手を考えないと…と考え出してすぐに、うってつけの小道具があることを思い出した。
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/5120559/)