白い煙にまみれつつ、俺はその辺の土を手づかみし、先ほどキラーマシンが立っていた方向へ走り出した。「忍び走り」も併用して、できる限り足音を抑える。
ある程度走ると、こちらに背中を向けたキラーマシンの大きな影が見えてきた。
2歩先が見えない煙の中で、なぜキラーマシンが背中を向けているのがわかったかと言うと、キラーマシンの頭部の赤い光が見えなかったからだ。
キラーマシンのレーダーの仕組みはよく知らないが、聞いた話では、あの頭部の赤い光を周囲に回すことで、かなり遠い位置にある物体でも、大まかな位置を探ることが出来るらしい。
加えて、あまり精度は高くないが、音を検知するセンサーも備えているという。ヘタに動いたらすぐさまキラーマシンに捕捉され、サーベルなりボウガンなりの餌食になるだろう。
もう数秒したら、奴もレーダーでこちらの位置を掴んで、目を泳がすこともなく、すぐさま向き直してくる。左腕のボウガンでこちらを射貫いてくる前に手を打たねばならない。
俺はキラーマシンがこちら側に気付く前に、手に掴んだ土を進行方向右側へばらまいた。
小石が散らばり、バララララッと乾いた音が辺りに響いた。その小さな音にも、キラーマシンは機敏に反応し、機械の体をグルッと回した。
向き先は当然、音が聞こえた方向、つまりキラーマシンから見た左側。
ここが狙い目だ。キラーマシンがあらぬ方向へ体を向けている間に、俺はキラーマシンの右脇へ潜り込んだ。でかいサーベルの冷たい威圧感が伝わってくる。
俺がキラーマシンを怖いといった理由は、武器や鎧などのまともな装備がない状態で戦うとき、キラーマシンの「生身に対する攻撃力」が致命的だからだ。素手で機械の体にダメージを与えるのは非常に難しいし、対処ひとつ間違えれば、サーベルやらボウガンやらに体を貫かれて死んでしまう。
逆に言えば、対処さえ間違えなければキラーマシンを翻弄し、逃げ去ることは多少楽なのだ。なにしろ、レベル的にはこちらの方が上なのだから、単純な足の速さはこちらが格上。冷静にキラーマシンをおちょくることが出来れば、どうにかは出来る程度の相手なのだ。
しかも、先ほど強盗団の男を斬ったとき、気絶はさせたが致命傷には至ってなかった。どうやら、このキラーマシンはヒトを殺すことが出来ないよう攻撃力を抑えられてるらしい。誤作動による事故を防ぐためなのか何なのかは知らないが、攻撃力を取り払ったキラーマシンはさしたる脅威ではない。こちらも敵を倒せないが、敵もこちらを殺せない。
そして俺は、敵をおちょくることに関しては天下一を自任していた。
俺は足をピンッと伸ばし、敵の懐から一気に飛び出した。そして、右手に持った秘密兵器を敵の丸い頭部へ叩きつけた。
パアンッという子気味良い音に続き、ベチャッと粘着質な音を立てて展開した「それ」は、キラーマシンの頭部をくまなく覆い隠した。
「ッッッッッッッ!!??」
と、キラーマシンは声にならない悲鳴を上げ(ような気がした)、ガッチャガッチャと悶えた。手でその粘着質な物体をはがそうとするが、強力な粘着力でびくともしなかった。
「まだらくも糸の大目隠し、一丁上がり!」
と言いつつ、俺はキラーマシンの足元にも同様のアイテムをぶちまけた。たちまち、キラーマシンは動けなくなった。
最近購入した小道具の新製品様様だ、これでキラーマシンを無効化できた!俺は勝利のガッツポーズを取った。
直後、ボゴォンッという轟音が響いた。
このタイミングで煙幕が少し晴れてきた。すると、轟音の響いた方がわずかに見えてきた。
見えてきたら、とんでもないものが目に入った。
キラーマシンがその4本足を地面にめり込ませて沈黙している。その頭の上には、ぴんと伸ばした両腕で器用に倒立している怪盗もどきがいた。
少し遠くてよく見えなかったが、キラーマシンの頭部が若干へこんでいるように見えた。赤い目の映るガラス状の顔面も割れている。
俺がその光景をぽかんと見ていると、屋敷の方が騒がしくなった。
「何事だ!」「先ほどの賊が騒ぎを起こしたようです!今衛兵を向かわせます!」という、2人の男の声が聞こえてきた。屋敷側のヒトの誰かだろう。通報されたらえらいことになる。
とりあえず、キラーマシンの片っぽは無効化した。辺りを見回したが、強盗団の面々もいない。上手く逃げることが出来たようだ。だったら長居は無用だ。さっさと逃げねば。俺はさささっと走り出した。
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