「だって君、うちは慈善団体じゃあないんだよ?野生動物なんて連れ込まれても処置に困る。いくら雨に打たれて可哀想だと思っても、一宿一飯の恩義を犬畜生に売る度量はないもんでね。そういうことは家族に頼みなさい」
「至極ごもっともだけど、深夜回って胡散臭いおっさん相手に『飼って飼って攻撃』なんてするか!
いいかよく聞け。こいつは例のコールタールさん家で飼われてた犬だ。こいつが宝の在処の手掛かりになるんだよ!」
「…へえ?遂に君も仕事に言い訳噛ませてきたか。なんぞ成果が出せなかったから、適当な野良犬捕まえて話をでっち上げたと?君はそんなせこい手は使わないものだと思ってたけどね」
「んな回りくどい嘘はつかねえよ!いいから、話を一回聞いてくれって!」
それから俺は、犬を怪盗もどきに預けた後、コールタール家の豪邸で起こったことを一通り説明した。
依頼された通り、屋敷の前で騒ぎを起こし、衛兵の気を引きつけたこと。
にもかかわらず、強盗団の連中はなにかをしくじり、ボディガードっぽいキラーマシンに追いかけ回される羽目になったこと。あと、何故か犬を抱えていたこと。
どうにかそこに割り込んで強盗団を逃したら、強盗団が抱えていた犬が俺たちのところに来たことまで、必要な部分は全部説明した。
…いまいち正体がわからない『黒ニンジャ』についての説明は省いた。というか、一瞬でも牢屋に繋がれてました、なんてことを自分で言いたくないっす。
なお、この間怪盗もどきは一言も喋らず、犬を抱き抱えたまま大人しくしていた。現場で自分への美辞麗句を並べていた手前、やけに静かなのが異様だ。
全部説明し終わっても、店主は怪訝な表情を浮かべたままだった。
「ほーお、強盗団たちがあの非常時に抱き抱えてたから、何かしら怪しい犬だってのは間違いないと。ふーん…」
「だろ?だろ?誰もあの状況で、冗談でも『犬を誘拐しよう』なんて思いつかねえだろ?連れ去るからにはなんかこの犬にあるわけだろ?で、連中は宝を探してる最中なわけだろ?だったら、こいつが宝の手掛かりだって可能性は大いに…」
という俺の必死の弁明も、店主の
「その話には無理がある」
という一言で遮られた。
「第一、その犬がコールタール家の飼い犬だという証拠はどこにある?雇用主たち(強盗団)の相棒って可能性もあるだろうに」
「ぬっ、それはぁ…あ、あれだ、自分らのために働かせる奴を抱き抱えて移動したりはしないだろ!どう考えても邪魔だし」
「ふん、じゃあ次に、ほんとに犬が手掛かりになり得るのかい?宝の在り処を示したもの、例えば地図かなにかを、ヨダレと土と遊び心に溢れた犬畜生に預けるというのは、流石に飼い主の気が触れてると思うね。可能性としては『家の金庫で厳重に保管する』って方が、比較にならないほど高いと思わないか?」
「ぬぬぬ…そ、それは…」
必死に頭を巡らせるが、全く筋の通った説明が思いつかない。確かに、そんな大事なものを犬に預けるなんて話、どう考えても無理がある。
だらだら汗を流す俺を見かねたのか、店主は
「…ふん、こっちは答えられないか。まあいい、こっちに関しては、不本意ながら君の正解らしいからね」
という意外なことを言った。
「は、はい?」
「実はね、君らがここに来る15分ほど前、君らの雇い主…例の強盗連中から手紙が届いた。『小屋』の扉にいつの間にか差し込まれていてね、部下が拾ってきてくれたよ。向こうは余程こちらと顔を合わせたくないらしい。内容をよーく読んでみてくれたまえ」
と言って、店主は1枚の手紙を差し出した。
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