そのときの俺と怪盗もどきの心境は、「唖然」の一言に尽きる。
白い犬が数瞬にしてスッポンポンの黒いプクリポに変貌するという怪現象を目の当たりにして、俺も怪盗もどきも、頭が真っ白になった。強がりの一つも思い浮かばなかったのは、今でも不覚に思う。
問題のプクリポは、得意満面といった表情で、
「フハハハハ、ビックリしたろ?肝が縮み上がっただろ?結構、ファーストプレゼンとしては上々の出来上がりだな!どうだったかな、俺様の演技力は?人畜無害で愛らしい犬にしか見えなかったろうな?」
と語り出した。ハスキーな男の声で。プクリポが出していい声質ではない。
一方、店主はというと、まるで「そんなこったろうと思った」とでも言うかのように涼しい顔をしていた。まさかとは思うが、本当に今みたいな超常現象を想定していたとでも言うんだろうか。裏クエスト屋なんて稼業をしてたら、このくらいの衝撃は当たり前になっちゃうのか…?
「な、な、なな何者なんだキミは!?さっきまで僕が抱えていた愛らしい犬をどこにやったんだ!?」
怪盗もどきが謎のプクリポを指差して、すごいテンプレートな驚き方をした。
ねえそれ多分この手の輩が一番喜ぶやつ、と突っ込みを入れるより速く、謎のプクリポはにやーっと、性根の悪そうな笑顔を浮かべた。
「ハッハー!よくぞ聞いてくれました!」
と、大声で答えるや、プクリポはカウンターから派手なバク転を繰り出して飛び降り---
気付いたら、白い肌をした人間の美少年が華麗に着地していた。
またしても目を疑う光景が繰り出され、俺と怪盗もどきが目を丸くしている間にも、プクリポだった美少年は、くるくると走り出した。
「ある時はあらゆる美女と寝屋を共にする薄幸の美少年!ある時はオオカミと戯れる白き孤狼!その姿、種族を問わぬ千変万化の大妖怪!」
そう前口上を語る怪生物は、裏クエスト屋の酒場のような部屋をグルグル駆け回り、その言葉通りに姿を変えていった。あるときは美少年、あるときは白い毛並みのオオカミ、あるときは巨大なレッドオーガの姿…そして気づけば、再び黒いプクリポが、丸い大きなテーブルの上に仁王立ちし、
「人呼んで『プクランドの化け狸』たぁ俺様のことだ!!」
と、大見得を切った。
どどんっ!!!と背景に擬音語が書かれてそうな光景だった。
俺が呆気に取られてる傍ら、ぱちぱちぱち、と怪盗もどきが小さく拍手した。
いや、正直にすごい。雰囲気に完全に飲み込まれていた。果たして今やるアピールだったかはともかく、少なくとも奇術師としては一流の腕前なんじゃないかと思わされる手際だった。
…って、いやいやいや、感動してる場合じゃない。結構言葉が飛び出したにも関わらず、目の前の不審なプクリポが結局何者なのか全然説明されてない。このまま話を進めるのは危険だ、相手のペースに呑まれる羽目になる。
冷静に、一度頭の中を洗い直して、再度プクリポの顔を睨んだ。
で、腹を決めて話しだそうとした矢先、
「ねえ君!さっきのくるくる変身するやつどうやったの!!?」
と怪盗もどきが横槍を入れてきた。目をキラキラさせて。
自称『化け狸』は得意満面といった表情で、
「はっはっは、手品のタネをそう簡単に明かす手品師なんていないぞ坊主?教えてほしくば二礼二拍一礼して厚く敬うがよい」
と鼻高々に答えた。なんの技なのかは教えるつもりがないらしい。
「なんていけず!それ使えばナンパし放題の彼女でき放題、理想の生活まっしぐらじゃないか!ついでに温泉に行けば女湯にも入れるじゃないか!」
「よくわかってるじゃないかお前、見所ありそうだ。だーが残念、一個だけタネ明かしをしておけば、こいつは性別は変えられんのだ。女湯は諦められよ」
「おい魚男、話が進まないからしばらく黙っててくれ」
俺の苦情に、ぶうと顔を膨らます怪盗もどき。それでも大人しく席へ座ったから、了承してくれたようだった。
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