地図を見せていた時間は1秒程度もない。これではとても全容を把握できたとは言えない。
「おい、何やってんだ。そんな早く引っ込められたら、どこが埋蔵金の隠し場所かわかんねえじゃねえか」
「もっちろん。こうしないと交渉に使えねーじゃねーか」
「交渉だって?」
と、俺が怪訝な目を化け狸に向けた。
おおともよ、とのたまった化け狸は、それから朗々と語り始めた。
「さて、今しがた見ていただいた宝の地図の写し、コイツはお察しの通り、コールタール家に代々伝わる『コルセットの埋蔵金』の在り処を示した代物だ。
いやぁ、コイツを手に入れるまでどんだけ苦労したか!屋敷に張り付いて宝の地図を探すこと10日、ようやっと探し当てた在り処はなんと、かの家で可愛がられてるエルザちゃんの首輪の中ときたもんだ!そこで俺は水も滴る美犬に化けて犬小屋に夜這いを仕掛け、エルザちゃんと恋の駆け引きを行うこと実に20日!ようやく心を開いたエルザちゃんから宝の地図を見せてもらうに至ったのであった!」
「ちょっと待てダウトだ化け狸!コールタールさん家の飼い犬がエルザちゃんって言うのはわかったが、なんでよりにもよって犬に夜這い仕掛けるんだ!?百歩譲ってお前を化け『狸』だと認めても生物が違うだろが!」
「そうだよとても信じられない!たったの20日で乙女(犬)を籠絡するなんて、どんな魔法を使ったんだい!?全ての乙女は難攻不落の大迷宮って言葉を知らないのかい!?」
「何そのことわざ!?そして狙ってたかのように論点をずらすな魚野郎!」
「はっはっは、俺様はヒトと言わずオオカミと言わず、夜闇を縦横無尽に這いずり廻る大妖怪であると先程言ったばかりであろうが。種族の差など、ムラムラと燃え上がる我が宝刀の前には万事が些事!豪奢な屋敷に住む深窓の令嬢(犬)を籠絡するなど朝飯前よ!」
毛皮に覆われた胸を目一杯張る化け狸。おっそろしいプクリポがいたもんである。
「で、だ。ここからが本題だ」
と、化け狸はパンパンと手を叩き、急に真面目くさった顔をした。
「現状、埋蔵金の在り処を把握しているのは、第一に俺様と、あのいけ好かねえコソ泥集団、コールタール家の飼い犬を攫った強盗団の連中だけだ。
んで、何が言いたいかと言うと、だ。
このままだとお前ら、なんも金銭が貰えないまま泣き寝入りしちゃうんだろ?俺様と組んで、強盗団の連中をとっちめて、埋蔵金を横取りしちゃわない?」
「はいぃ?」
俺と怪盗もどきは怪訝な声を出した。妖怪を自称する怪しげな生物と共闘関係を結べというんだから、そりゃそんな声も出る。出るけど、その提案は一考の余地があった。
俺は腕を組んで考えた。
化け狸の言う通り、このまま指を咥えていては、埋蔵金の全てを強盗団に持ち去られてしまう。連中の出した手紙からして、今更分け前を要求しても受け入れられる余地はない。だったら、強硬手段に出て埋蔵金を確保するしか、お金を得る手段はないだろう。
となると、仲間は居た方がいい。
強盗団の面子は、豪邸前で見た6人以外にも仲間がいると見ていい。何故なら、この仕事を店主が紹介してきた際、強盗団は埋蔵金の分量を「20人で山分けできる量」と説明していたらしいからだ。
そう言うからには、連中には埋蔵金を20人前後で山分けする予定があるということで、つまり、強盗団の面子もそのくらい居ると考えられるのだ。(連中の行き当たりバッタリ感を見るに、この説明もデマカセを言っている可能性は大いにあるけど…)
…まあ、人数見積もりは完全な勘だが、こちらの味方(?)が怪盗もどきだけと思うと、確実にこちらが少人数である。増やせるものなら味方は増やしたい。
であれば、化け狸の提案を受け入れるのが得策とは思うけど…いくらか怪しい部分はある。先に疑問を解明しないと、いまいち信用が置けなかった。
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/5724655/)