「で?肝心の入り口はどこだ?定番なら、あの遺跡の台座の中とかがそれっぽいけど」
と、俺が化け狸に言うと、
「残念、そっちじゃないんだよな。正解はこっちだ」
と言って、化け狸は川岸の方へと歩いていった。俺と怪盗もどきもそのあとへ続いた。
化け狸は、広場の入り口から向かって左側の丘の麓と、川が接地する部分の前で足を止めた。
丘の麓には、人間が一人だけ通れそうな穴が開いていた。
加えて、その穴の周辺の地面だけ、不自然にほじくり返されている。恐らくは、先にこの場へ到着した強盗団がこの入り口を探すため、この部分を重点的に掘っていった結果、目的のものを見つけたのだろう。
「ほ、本当にあった…」
「あ~、見事にほじくり返されてら…これな、俺様が一番初めに見つけたときは、丸い蓋で入り口が隠されてたんだよ。その蓋は…見当たらねえな。連中がどっかに捨てっちまったようだな」
蓋の形状はわからないが、元々小さい入り口を覆い隠してしまうものなら、ちょっとしたきっかけが無ければ、入り口に気付きもしないだろう。道理で長年見つからなかった訳だ。
入り口の小さい穴を通って、洞窟の中へ移動する。距離は意外と短く、2mも這って進んだところで、普通に足で立てる程の広さになった。
「うわあ、服が土で真っ黒になっちゃった!せっかく着替えて来たのに!」と騒ぐ怪盗もどきを後目に(こんなとこまで白い服を着てくる方が悪い)、さらに洞窟の中を進むと、土で出来た壁が石造りのそれへと変化した。
そこはまるで、ウルベア地下遺跡を丸々移設したかのような景色だった。深い緑色にくすんだ石の壁は、永遠に続くような薄暗い迷宮を形作っている。ところどころ崩れた壁からは、巨大な歯車が顔を覗かせている。
驚いたことに、この遺跡は魔物が一匹も見当たらなかった。きっと長年入り口が隠されていたから、魔物が入り込む余地もなかったんだろう。考古学者なら泣いて喜ぶ奇跡だ。
周囲に強盗団の面々は見当たらない。動かせる面子は皆、洞窟の探索に出てしまっているようだ。
「さて、と。俺様が案内できるのはここまでだ。こっから先はいよいよお宝の争奪戦に突入だぜ」
と、化け狸は口火を切った。
「じゃあ作戦会議の続きだ。敵は10人強と考えるとして、どう対処する?先にこっちが宝を見つけられれば話は早いが、今の状況だとそうもいかなそうだ。先に連中が宝を確保してる前提で考えて、こっちから仕掛けて強奪する線で行くなら、どういう風にやる?」
「えーと…化け狸は戦えないとして、俺と魚野郎で突貫して、隙を見て化け狸が宝を強奪、それを確認したらさっさと逃げる…ってするしかねえんじゃないか?」
「お?俺様が強奪するのか?あんたらが勢いに任せて奪い取るというのは?」
「2対多の戦いだぜ?格下相手だとしても、戦う以上のことは出来ないと思ってくれよ。雇い主だからって休むみたいなマネはしないでくれ」
「オーケーオーケー、やってやる。泥棒稼業の実力、見せてやろう」
「よし、そっちは任せた。魚野郎はそれでいいか?」
「んー…ま、いっか、それくらいしか出来ないよね…でも、一個約束してくれない?」
「何だよ」
「今夜見せる僕の戦い方は、くれぐれも他言無用でお願いするよ」
「…へえ、なんか一芸持ってそうだな。サングラスのあんたはなんか知ってる?」
「見たけど、他言無用というのなら言わない。けど、こう見えて確かな実力はあるぜ?」
「はっはっは!頼もしいこったな。じゃ、決まりだな。まず、あくまで目的は埋蔵金の確保、相手との戦闘は宝を強奪するためだけに行う。殺しは勿論ナシ。それでいいか?」
「異議なし。なんとかやってみようよ!」
「同じく。1時間後は金持ちになってることを祈ろうぜ」
「よっし。じゃ、作戦開始だ!」
時刻は深夜2時。俺たちは遺跡の奥へ踏み込んだ。
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