「ンググググッ…こっ、この、僕が、こんな汗臭い、重労働を…お前、僕のマント踏んだら…半殺しじゃ、済まさない、ぞ…!!」
「グギギギギギギッ…て、てめえ、どういう身体、してやがる、んだ…」
双方、物凄い気迫で相手を押し込もうと奮闘している。距離が近すぎて、俺も迂闊に支援できない状態だ。間違って怪盗もどきを昏睡させたら目も当てられない。
そのとき、ザザザザザッと走る音が響いた。俺は壁際に張り付いたままだし、怪盗もどきもオーガも組み合ったままだ。一体誰の足音だ?
「ヤッハァ!待ってたぜ、この状況をよォ!!」
そう叫んだのは、まぎれもなく化け狸の声だった。
続いて、戦闘開始からずっと放置されていた宝箱の傍に、突如化け狸が「出現」した。まるで透明人間が急に姿を現したかのようだった。
そう。手段は不明だが、奴は戦闘開始から今まで、ずっと身を潜めていたんだ。主だった敵が全員身動きできなくなった今、奴はこうして宝箱を確保したわけだ。
「おう、2人とも、ずらかるぞ!!そんなオーガ、適当に撒いて逃げ出せ!!」
そう叫んだ化け狸は、抱えた宝箱もろとも大きなマントを被り、再び姿が見えなくなった。あのマントが透明化の秘密であるらしい。
再び、ザザザザザッという足音が通路に響く。化け狸が逃げ出した音に違いない。あっという間の犯行である。
その場に残された全員があっけに取られていたが、ぼーっとしている場合ではない。無事に宝箱を確保した今、やるべきことはひとつ。
「磯野郎!俺は先に行くぞ、さっさと弾き飛ばせ!」
「えっあっちょっ、待って待って弾き飛ばせって君、コイツ想像以上に重いんだけど!」
「グ、ぐうおおおおお!」
未だ渾身のチカラで組み付いてくるオーガを前に、怪盗もどきは一歩も移動できなかった。
「しょうがねえ、当たっても文句言うなよ!」
と言って、俺は石をオーガの腕辺りに投げつけた。
石は見事に肘に当たり、痛みでオーガが低く呻いた。その隙に、怪盗もどきがオーガを押し込み、その巨体を地面に弾き飛ばした。
「よっし、逃げるぞ!!」
一路転身、全速力で逃げようとした、その矢先。
何か巨大なものが俺にタックルしてきて、あっさりと通路の反対側の壁へ押し付けられてしまった。後頭部を強打したせいで、視界に火花が散る。
切磋に足を挟んだため、まだ身動きができる状態だが、渾身のチカラで押さえつけられている。
「貴様ぁ、よくもチャムクたちをやってくれたな…!!」
「ガラル…!は、ハハハ、おっそいんだよこの野郎!!」
眼前のオーガが怒りに燃えた様子で、俺を睨み付けてくる。地面に倒れていた方のオーガは、勝ち誇ったような声を上げた。
俺は、自分に組み付いているオーガの後方から、何人かの人間やドワーフが迫ってきているのを見た。
しくじった。戦闘に時間をかけ過ぎたせいで、ダンジョンの他の場所に散っていた強盗団の仲間たちが、この場所へ集まってきたんだ。
「ちょっと、何やってんの!」と、俺に駆け寄ろうとした怪盗もどきは、地面から起き上がったオーガにタックルされ、地面に組み伏せられた。
通路は行き止まり。逃走できるルートからは、敵が続々とやってくる。
さっきまでの優勢から一転、絶体絶命のピンチだ。
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/6113602/)