「泳いでるときに外れそうになってたから、こっちで拾っといたよ」
「何から何までありがとうございますっ…グラサン、ヒビ入ってる…」
「そんなの知らなーい…あれ、君の目、なんか白くない?前見えてるの、それ?」
「え?普通に見えてるぞ?単にこういう色素なんじゃねえの?」
「いや、あんまり見ない色だと思うけど…あ、だからグラサンで隠してるの?」
「いや、単なる趣味ですけど」
怪盗もどきは、珍妙なものを見るような顔をした。ドレスアップ的なところで言いたいことがあるんだろうか。
「なんだよ、はっきり言えよ。服のセンスについては意見を受け付けないぞ」
「受けつけないのかよ…いや、そっちじゃなくて。その目といい白髪といい、もしや大分苦労してらっしゃる?だとしたらそのドレスアップセンスも同情の余地があるかもなぁ」
「あん!?おいおい、服のセンスと結びつけられるほど苦労した覚えは流石にねえよ!?単にこの頭は---」
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…あれ。なんだっけ。なんでこんな頭になったんだっけ。
髪も目も、元々この色じゃあなかったはずだ。なんか赤っぽい地毛が原因でいじめられた覚えがあるし。
じゃあ、なんか変色した要因があるはずなんだが…ダメだ、思い出せない。
「?君の頭が、何さ」
「…え~っと…せ、聖者の灰をぶちまけたことがありまして…以来、取れなくなっちゃって…」
「何それ、怖っ!聖者に呪われたら世話ないっしょ!わかった、そのせいで服のセンスが壊滅したんだね!」
「服のセンスは関係ねえっつったろ!?」
ぶはははははは!と大笑する怪盗もどき。上手く誤魔化せたようだ。
だが、髪色や目のことは尚も思い出せなかった。どうもおかしな気分だが、今は放っておく他なさそうだ…
「おうおうおう、ここに濡れネズミが2匹ほど居るではないか!余程深く潜ったと見える。深海のグラコスさんは息災だったか?」
不意に、芝居がかった声が頭上から降ってきた。
見上げると、丘の上には化け狸が陣取っていた。
その傍には、洞窟からかっぱらってきた宝箱がある。
「おい、一旦こっち上がってこい、こっち」という化け狸に従い、俺と怪盗もどきは丘の上へ移動した。
「強盗団の連中は、大分前に洞窟から逃げ出してったぜ。そっちのグラサンのお兄さんのおかげで、洞窟の中は粗方水没しちまったから、多分誰もいなくなったんじゃねえの?思い切ったことしたなー」
クツクツと笑う化け狸。
「…水没?」
俺は恐る恐る尋ねた。
化け狸が背後の川を指差した。ゴウゴウと普段以上に激しい水流が目に入る。
「おう。爆弾かなんかで壁吹っ飛ばしたんだろ?あの場所、川底に面した地下何メートルかってとこだし、そりゃ水が全部流れ込むだろ。いやあもったいないなー、貴重な古代遺跡がパァになっちゃあ、学者連中も泣き出すだろうよ」
古代遺跡…金銭価値にしていくら位だろうか…尻の毛残らず抜いても足りないだろうなあ…
「お…俺はなんにも知らない…知らないからな…」
「ハイハイ、弱みを握ったくらいに思っておきましょうか…ウェディの兄ちゃんも上手く隠れたな。あの水量に巻き込まれたなら、誰もお前ら2人が生きてるたあ思わんだろうよ。強盗団の奴ら、追っ手の1人も出さないで逃げてったぜ」
「はっはっはー。グラサンの彼が窒息するギリギリまで川の中で隠れてた甲斐がありました!」
「オイコラ」
「同時に、ウェディの兄ちゃんの切り札が見えてきちゃってるがなー。いくらウェディでも、生身で激流の中に長時間滞在できるもんでもなかろうよ」
「ギクッ」
「ウハハハハ、ご安心めされい。一晩の仕事仲間のよしみだ、他言などするものかよ!…今んとこは、な」
うー…とほぞを噛む怪盗もどき。余程の生命線であるらしい。
嫌な喋り方するな、この狸…着々と他人の弱みを集めてきやがる…
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/6195614/)