俺と怪盗もどきは、困惑する他なかった。
「えっ、えっ。どういうことだ?250万ってなんの話だよ!?」
「俺たちのクエスト達成報酬だよ、色黒。いやー、爆薬にまみれて、川に流されて、ようよう苦労した甲斐が報われたわけだ!よかったな!」
あー疲れた疲れたと言わんばかりに、ぼてっと床へ座りこむ化け狸。
「いやいやいやいや、話に付いていけねーよ!どんな手を使ったらそんな額が捻出できんだ!謂れのねえ金を受け取るほど怖いことはねーんだぞ!ちゃんと説明しろ!」
「え〜〜、やだ。めんどくせー」
「お前、さっきまでの饒舌さはどこやったの!?」
化け狸と問い詰める俺の間に、店主が仲裁に入った。
「まあまあ。彼はずっと前から頭を捻って頑張ってくれたからね。さすがに疲れたんじゃない?」
「…おっさん?さてはアンタ、裏でなんか糸引いてたりしてた…?」
「とんでもない!僕は彼の『絵図引き』に知恵を貸してあげただけだよ?君たち、化け狸くんに感謝しないといけないよ。あのままだと君たち、ただ働きになってたからね」
「そりゃ、まあ…確かにそうだが…なんでそれが化け狸の手柄なんだ?」
「ちょうどいい、まとめて説明してあげよう。少々込み入った話だ。メモを忘れないようにね」
そうして、店主は事情説明を始めた。
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店主が初めに断った通り、本当に込み入った話だったので、順を追って説明する。
発端は、化け狸が件の豪邸、コールタール家に潜入したことである。
俺は知らなかったのだが、化け狸はその自称の通り、その道では知られた『泥棒のプロ』なのだという。俺たちに披露した『変身術』を始めとして、金庫探しやピッキング、ヒトを騙す手練手管を駆使し、あちこちの金持ちの家へ潜入しては、鮮やかな手口で金銀宝石を盗み出していく。その評判たるや、裏クエスト屋店主の耳にまで届くほどなのだ。どこかの磯野郎よりよほど怪盗らしい。
そんな化け狸が目を付けたのが、日頃から『伝説のコルセットの埋蔵金の隠し場所を記した地図を所持している』と噂される、コールタール家だったわけである。
ちょうど1ヶ月前、屋敷では新たなコンシェルジュの公募を行なっていた。化け狸はそこに目を付け、持ち前の変身術を用いてコンシェルジュ採用試験に乗り込み、まんまと潜入に成功した。その後10日をかけて、お目当ての宝の地図が、コールタール家で飼われている犬-エルザちゃんの首輪に隠されていることを突き止めたのである。
そして当番の日が回ってくるのを待ち、エルザちゃんの世話をしているついでに、まんまと『宝の地図』を抜き取ったのである。
(別にエルザちゃんを口説いたわけではなかった。そりゃそうだ)
あまりに手際よく地図を入手した化け狸。だが、ここで遂に異常に気付く。『宝の地図』が子供の落書き同然の出来栄えだったのだ。
「狸に質問。なんで『子供の落書き』って気付いた?宝の地図っていったら、結構急ごしらえで作って汚くなるってパターン多いじゃん。一目で偽物だと思った根拠は?」
「いい質問だ、グラサン君。なぞなぞの『タヌキ文』って知ってるか?与えた文章の『た』だけ抜き取って読め、ってやつ」
「あー、なんか子供のとき読んだクイズブックに載ってたな…ってオイ、まさか…」
「おう。ぶっちゃけ、地図ですらなかった」
数十年または数百年前に隠された埋蔵金、その宝の地図の内容が、なぞなぞ。そりゃあ偽物に違いない。
化け狸は足がけ10日をかけて、子供が描いた落書きを入手してしまったのである。
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