話を化け狸の件に戻す。
コールタール氏が噂をはっきり否定しなかったからなのか、「コルセットの埋蔵金」の噂は尾ひれが付いたまま広まった。すなわち、「コルセットの埋蔵金の隠し場所を記した地図が、コールタールの豪邸のどこかに隠されている」という内容である。
それなりのインテリならいざ知らず、様々な事情で切羽詰まった者や、血気にはやる泥棒などは、この噂を真に受けてしまった。
そしてその被害者(?)第一号が、たまたま化け狸となったというわけである。
まごうことなき自業自得。しかし化け狸は諦めなかった。それなりに頭脳明晰で通っていた化け狸のプライドが、苦労した末の一文無しで撤退、という状況を認めなかったのである。
一旦、見つけた地図を犬の首輪に戻した化け狸は、悩みつつ豪邸を後にした。
この「ネタ」からどうにかお金を引き出せないか。
その悩みを相談するため、彼は裏クエスト屋を訪ねたのである。
裏クエスト屋は、はっきりした依頼内容を持っていなくとも、何かしらカネになりそうなネタを持ち込むことで、依頼可能なクエスト内容を編集する商売もやっている。化け狸はそこに一縷の望みをかけたわけだ。
---つまり、化け狸と店主は昨日が初対面ではなく、それ以前から知り合いだったのである。
そして化け狸の変身術のことも、初対面の時点で化け狸から(あの派手な演出で)教えてもらったのだろう。どおりで驚かないわけだ…
実は同時期、店主も頭を悩ませる案件を抱えていた。他でもない、オーガのオルカ率いる強盗団--もとい、埋蔵金を求めるゴロツキたちが、コールタール家からの宝の地図奪取のため、一晩限りの陽動要員を雇う裏クエストを発注した件である。
これがまあ店主の目から見ても無謀な、全然利益が見込めないクエスト内容だったのである。元より金に困ったゴロツキ、報酬は得体の知れない『埋蔵金』頼り。ビジネスとしては論外の内容だろう。
「そう思うんだったら止めろよ」と思うのだが、店主は別に発注を止めはしなかった。やろうと思えば、然るべき報酬の支払いを彼らが拒否した時点で、『体から』支払ってもらうこともできなくはない。とはいえ、20人規模の彼らを仕留めるのもなかなか骨が折れる作業なので、穏当に支払ってほしいのが本音である。
クエストとはすなわち、依頼する側とされる側、双方が得をする契約。関わった全ての者が利益を得るためには、どこかからお金を捻出しなければならない。しかし、強盗団は報酬支払い能力すら怪しく、『埋蔵金』も信用できない。
依頼者(強盗団)も被雇用者(俺ら)も仲介人(裏クエスト屋)も利益を得るには、どうすればいいのか?
裏クエスト屋店主と化け狸が頭を突き合わせ、議論すること1日。彼らはひとつの作戦を立てた。
結局のところ、当初の関係者の面々だけでは、到底十分な利益は生み出せない。なので、もう一名関係者--あえて悪い言い方をすれば「金ヅル」を巻き込むことにしたのだ。つまり、コールタール氏である。
コールタール氏は、元々裏クエスト屋店主と旧知の仲で、法律に触れない範囲で商談を交わしていたのだという。
現に、店主とコールタール氏との間で商談が進んでいる。その規模、1千万ゴールドがはした金とされる程だというのだ。
その商談の場において、店主はコールタール氏にこう話を持ちかける。「そういえばご主人、あなたが以前お話ししていた『埋蔵金』が見つかったそうですよ?」
『埋蔵金』の正体を知るコールタール氏としては、あまり穏やかに聞き流せる話題ではない…話の導入だけにせよ、商人が胡乱な噂話を頼りに商売していたとあっては、致命的とは言えないまでも、信用に多少の傷が付くのは避けられないからだ。『埋蔵金』が実はおもちゃでした、なんて話が発覚したら、何かとその話題を出していた側からしたら、なんとも気恥ずかしい事態になるだろう。
コールタール氏は、店主から詳細を聞いた上で、ある頼み事をする。「『埋蔵金』を回収して、自分の元に持ってきてくれないか?費用は自分が出すから」と。
この埋蔵金回収費用こそ、今回の裏クエストの報酬である。
名目上は「隠し場所の探索費用と人件費」として、250万ゴールドの支払いを取り付けたのだ。本来の商談の儲けとして、コールタール氏が受け取る額から捻出されるため、契約上は特に問題はない…らしい。コールタール氏のポケットマネーという扱いだからなのか。なんにせよ、こんな怪しい支出に250万をポンと出せる懐事情が羨ましい。
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/6389347/)