「で、ジャック。まだ家に帰らないの?」
ブスッとした顔のまま、マヨは単刀直入に言った。
「…えーっと」
「親子喧嘩を拗らせて家出って、一体いつまで前時代的なことをやってる気だよ?家出直後は誰ともクチ聞きたくないだろうと思ってほっといた父さんも父さんだけど、いくらなんでも4年はスネるの次元じゃないだろ?母さんも最初『あんなヤツのことは知らんっ』て感じだったのが、割と早い段階で狼狽し出して、今じゃ酒飲むたびに兄貴のグチ流してんだよ?しかも魔法戦士団脱走したあたりから手紙もよこさなくなったし、あんときは家族全員で肝冷やしたんだぞ!」
目を見張るような早口でマヨがまくし立てる。積年の恨みを晴らさんとでもいうかのような勢いだ。
「ぐっ…いやあの、これには事情があってだな」
「知っとるわ親子喧嘩だろ!?目の前で見てたわ!まだ根に持ってることがあんのかも知れないけど、4年もフラフラする理由になんかなるか!!」
マヨは、バンっと近くの机を叩いた。
「………あの、マヨ。悪かったよ。迷惑かけた」
こりゃ、参った。本気で怒ってる。
この4年間、家のことなんか顧みる機会などついぞなかったが、弟には余計な心労をかけさせた。
「ボクに謝らなくていい。まずは家に帰って、父さんと母さんに謝れ。いい加減、喧嘩のことなんか水に流して…」
「それは、できない」
は?という、訝しげな顔を浮かべる弟。
「事情は話せないが、俺はまだ家に帰れない。どうしても解決せねばならん問題があって、それを片付けないことには、安心して家に戻ることができんのだ」
「なっ………なにやらかしたんだよ兄貴!?そんな家にも戻れないようなことをやったっていうの!?なら尚更、父さんに相談した方が」
「頼む、親父とお袋にはなんも言うなっ」
俺はベッドの上で、弟に対して土下座した。あまりのことに、マヨは言葉を失った。
気まずい時間が流れた。随分長い間沈黙が続いた後、弟は心底呆れたようなため息を吐いた。
「…もう、知らん。勝手にやれ。僕は何も聞かなかったことにする」
話はそれでお終いだった。マヨは椅子から立ち上がり、部屋の出口へ向かった。
「…すまん、マヨ。迷惑かける」
「別に、兄貴の事情は知らないけどさ」
謝る俺に対して、弟は睨みながら言った。
「土下座を軽々しくやるんじゃないよ。肉親がソレやってんの見るの、めちゃくちゃキツいから」
「……しばらく、この町にいる。なんか用があったら言ってくれ」
フンッと鼻を鳴らしたあと、マヨは帰っていった。
こうして、4年ぶりの兄弟の再会は、余計に両者の溝を深くしたまま幕を閉じた。
何も言い返すべきじゃない。やはり、弟は俺に似ず頭がいい。常に正しいことを言う。
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