「…こ、このままってのは」
「裏世界の人材を転がす私の目を甘く見るんじゃないわよ。アンタ、この業界向いてないわ」
「!?」
「麻薬密売に手を出すクソどもは、天地がひっくり返ても更生しないからクソって呼んでも構わない連中なのよ。あいつら、自分らで売ったもんで顧客がどうなるか、いちいち気にしないから。裏クエストだって似たようなもんよ。クエストを受けた奴も発注した奴も、クエストの結果でどこのどいつが破滅しようと、なんも知ったこっちゃない、金さえ稼げればどうだっていい--そんなクズどもの踊り場。一刻も早く潰れればいいわ、あんなブラック企業」
「--ああ、そうだよ。お前の言うことはなんも間違っちゃいない」
ポポムの辛辣な評に、なにも言い返す気になれなかった。
それはこの二年間、なるべく考えないようにしてきたことだ。モリナラの奥地で秘密裏に作られた麻薬を運ぶときも、偽の小切手を作る印刷所の警備をやらされたときも、カミハルムイの遊郭で高価なかんざしを盗み出したときも、見も知らぬ良家の護衛をおちょくったときも、いつだって俺は目の前の仕事をやり遂げることに必死だった。時にはやりがいすら感じる裏クエストの裏で、どれだけのヒトが泣くことになるかなんて思考は、目を瞑ってやり過ごすしかなかった。
考えないようにしてきたが、それで自分の最低さ加減をいつまでも誤魔化せるわけがない。
「俺だって、そういうクズの一部だ。クズに混じってでも金を稼ぐって決めたんだよ、俺は」
英雄になり損ない、家族からも逃げ出して、借金まで背負って、これ以上なく恥を晒してきた。今さら真っ当な仕事にありつけるなんて、到底思えない。
「そういうとこよ。良心のカケラでも持ってるような奴が裏クエスト続けてたら、早晩くたばるわよ。アンタ、変なとこでクソ真面目なんだから」
自分で喉を引き裂いてしまいたくなるような衝動を抑えて発した告白を、ポポムは別になんでもないような顔をして流した。
のみならず、耳を疑うようなことを口走った。良心。良心って言ったか、コイツ。そんなもん、ここ一、二年発揮した覚えなんかないんだけど。俺の告白ちゃんと聞いてた?
「お、お前…俺のどこを見たらそんなこっ恥ずかしいこと言えるんだよ…」
「『クズ』を自称する割に開き直ってないとこ。顔見ればわかるわよ」
さらりと続けるポポムの言葉で、自分の顔が紅潮していくのがわかった。
小悪党だなんだと非難される覚悟はあっても、まるで自分がいい奴みたいに言われるのも、なんか、こう…こっぱずかしい。
灰皿に灰を落としながら、ポポムの話は続いた。
「悪党どもが『なんで』更生しないか、考えたことある?『自分は間違ったことなんてしていない』って思い込んでるからよ。ヒトは『こんなこと間違ってる』なんて思いを抱えたまま、いつまでも仕事できるようには出来てない。進んで悪事ができる奴は、そもそも自分が犯罪を犯してるなんて微塵たりとも考えてないのよ。水を飲むことが実は犯罪だから辞めろ、なんて言われて、水を飲むのを辞める奴が果たしているか?そのくらいの『当たり前の』感覚なの。
悪事が当たり前じゃないってことがわかってる奴が、義務感のつもりで犯罪を繰り返したら、公僕に捕まるより早く心が死ぬわよ。良心の呵責があるうちに、さっさと足を洗いなさい」
「そ、それが出来たら苦労しねえよ!俺の借金の額、知ってて言ってんのか!?三億だぞ!?まともに働いて返せる額じゃあねえんだ!!」
「私たちが『災厄の王』を封印したときは、六王連合から百億の謝礼金贈られたわ。今どき三億なんてはした金よ」
「それが『まとも』のうちに入るかっ!?」
「じゃあ、一応聞いておくけど。アンタ、『いやしの雪中花』の栽培方法が確立したって話、知らないでしょ」
「------は?」
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/6965311/)