めまいがして眉間を抑えた俺を呆れたように睨みながら、ポポムは続けた。
「私が我慢ならないのは、そこよ。小悪党(バカ)が無い頭振り絞って犯罪(バカ)やってんのも、もうはらわた煮えくり返るほど気にくわないけどね、それ以上に許せない人種があんのよ。情報弱者がはした金であくせく働いた末に体や心を壊す一方で、『知ってる』奴は異次元なほどのぼろ儲けをする。『知らない奴が悪い』ってのが、裏表共通の商売倫理だけどね。弱者に目隠しして、味方面して手を汚させて、自分だけ甘い汁をすする輩は、『悪党』と言って差し支えない。
アンタが何考えて働いてるのかは知らないけどさ。裏クエストってのはそういうピンハネが許される場よ。このまま働いてたら、人生を棒に振るわよ」
「--い、いや、そりゃ驚いたけど、それは契約を理解してなかった俺が悪いって話だろ。これからはもっと注意して引き受けるってことで片を付けりゃいいだけじゃねえか?裏クエストが金になるってのは事実なんだ、何も逃げ出すほどのことじゃ…」
「だからさぁ、アンタ…」
ポポムは身を乗り出し、大胆にも机の上に仁王立ちして、俺の胸ぐらを乱暴に掴んだ。本来可愛らしいはずの顔面に青筋を浮かべた様は、オーガだって思わず逃げ出すだろう。
「仕事一回一回の出来で一喜一憂したり、人様に迷惑かけてないかでいちいちうじうじするような奴が、裏クエスト受けるような真似やってて、大人しく見守るわけないでしょ!マッチを手にして遊んでる赤ん坊を叱るのが大人の役目だ!犯罪に手ェ出そうとしてるクソガキを補導すんのが察官の義務だ!周りに相談できる奴がいるような幸せもんが、自分の人生捨てるんじゃないわよ!!」
ポポムは、ドワーフの小柄な体格からは想像もつかなかったほどの声量で怒鳴った。酒場の他の客が驚いて、全員こちらを凝視してきたが、ポポムは気にした風もなかった。
俺は、全身が総毛立つような気迫を真正面に受けながら、不覚にも目じりに涙を浮かべそうになり、それを悟られまいと必死にこらえた。
断じて、彼女が怖かったからじゃない。心のどこかで、こんな風に怒ってくれるヒトを待ち望んでいたんだと思う。
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