デリケートな話になると判断した俺とポポムは、酒場の奥にある個室に移動した。
『(バクチで負けた系の)借金返済のための相談を外部のヒトとする』…というのは、自分の恥部をさらして話をするようなものなので、顔から火を噴く恥ずかしさを覚えるものだけど、ここで黙っていたって話が進まない。自尊心をかなぐり捨てて、俺が借金を抱えることになった経緯を説明した。
三年ほど前、小学校時代の同級生だった男が俺の寮を尋ね、「ガタラーヒルズ建設費用を借りるための連帯保証人になってほしい」という相談を受け、それを快諾したこと。それからさして時間を置かずに、同級生の男が雲隠れし、借金の請求が俺のところに来たこと。その後数か月間逃亡を重ねたものの遂に捕まり、改めて三億ゴールドという途方もない借金を抱える羽目になった。以後二年間に渡り、裏クエストを交えつつ借金を返済するために働いている--というところまで、順を追って説明した。
ポポムは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。すぐにでも俺を罵倒したいような心持ちだったろうが、最後まで辛抱強く聞いてくれた。
事の顛末を聞き終えた彼女は、やはりしかめっ面を浮かべている。
「連帯保証人…そういうの、いかに魔法戦士団といえど、下働きの安月給で引き受けるような話じゃないでしょうが…法律的にも擁護が難しい立場よ。やっぱ諦めた方がいいかも」
「早々に諦めないでくれよ!」
「半分以上自業自得でしょうが!…まあいいわよ、続けましょう。借金についての契約書の類は持ってるの?無いなら今度こそひっぱたくわよ」
「怖っ…」
恐れおののくジェスチャーをする俺。
ふざけてる場合ではない。本来なら生命線となるはずの契約書だって、借金取りに取り上げられてしまっている。
だからこの場合、甘んじてポポムにひっぱたかれるしかない。ムチが飛んでくるのを覚悟する。(レンジャーだから)
「つっても俺、契約書なんて持ってな――あれ?」
だというのに、『契約書』という字面に妙な既視感を覚えた。
なんだろう。どういうことか、最近契約書を突っ返されたような気がする。そんなイベントはここまで起きてないはずなのに。
試しに、腰に巻いた道具袋をまさぐってみた。薬草、どくけし草、まんげつ草、貴重品の月のめぐみ、底の抜けたガラスのコップ--
邪魔なものを取り出してテーブルに並べていき、道具袋の底の方をのぞいてみると、コンパクトに折りたたまれた和紙が出てきた。
その和紙を袋から取り出し、開いて文面を確認する。果たしてそれは、持っていないはずの借金証書であった。
「あるじゃない。貸してみなさいよ」
反対側の席に座るポポムに、証書を取り上げられた。
そして彼女は、テーブルの上に借金証書をばっと広げた。紙面上には、下記のような文章が書かれている。
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『ガタラーヒルズ建設に伴う金貨貸付証書』
債務者:ビリー・デンゼル
連帯保証人:ジャック・ルマーク
債権者:レンドア金融会長 ジャン・アンゴ
債権執行人:レンドア金融 メルトア・マリアドーテル
貸付金額:300,000,000ゴールド
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書かれているのはそれだけだ。長ったらしい契約文などはなく、全体として素っ気ない印象を受けた。
「…この辺の名前は覚えてる?債務者とか債権者とか」
ポポムが俺に尋ねる。
「あー…うん、覚えてる。ビリーがそもそも、ガタラーヒルズ建設に手を出した奴だ。『債権執行人』がいわゆる借金取りだよな?名前は知らなかったけど、そうかメルトアって言うのか、あいつ…」
「………んー…」
ポポムは得心がいかないという表情を浮かべた。
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