とはいえ、途中ではやめられない。気合いを入れて次の話に移った。
「なんだっけ、その…『借金取り』?いやもうメルトアって呼ぶか。その女は、どういう感じで強請(ゆす)ってくるの?」とポポムが聞いてくる。
「どうって…例えば、現在進行形で言われてるのは『一週間で五百万ゴールド用意しろ』とか、そんな感じで定期的に請求される。額や期間はマチマチだけど」
「ハアッ!?一回でたったの五百万!?舐めてんの!?タンスの肥やしにしてる素材、全部売り払えばすぐ貯まる額でしょそんなの!!」
「いや、ない!それはない!断固として否定できる!俺の装備品全部売り払っても五百万には届かない!それができるならやってる!できないから裏クエしてんの!」
『時の王者』基準で冒険者の懐事情を考えないでほしい。マデュライトみたいな高級素材をタンスの肥やしにできるような身分だったら、借金ぐらいで身の破滅を呼んだりしない。
「…あっそ、それがアンタの支払い能力の限界なのね?それで裏クエストに流れるのは気に食わないけど、まあありがちな話ね。
五百万って額自体、毎度提示されてるわけじゃないのね?」
「今回が歴代最高額だ。今までは『一日で十万』とか『三日で五十万』とか、そんな辺りを繰り返してた。たまたま手持ちが良ければすぐ払える時もあったけど、大抵は足りなくて裏クエストをやる感じだった」
「…ふん」
「なんというか、いっつも返済できる額からギリギリアウトなラインを狙ってくる感じなんだよな…ギリギリっつーか、裏クエやってなんとか届く範囲で…」
「ふーん…」
「…?ポポム?なんか気付いたのか?」
相変わらずのしかめっ面だが、ポポムが非難がましく俺を見るようになっていることに気が付いた。まあ、ずっと非難がましい表情だけど、ここに来てなおさら。
「…アンタさ、一回一回の返済がそんな少額でおかしいと思わないの?いやアンタにとっちゃ、五百万だって並みの大金じゃないって話だけどさ、総額が三億あるいは百億ってことを考えたら、もっと大きな額を求められてしかるべきと思わない?百万規模の請求を永遠繰り返したって全額返済できるわけないじゃない」
「そこは…まあ…俺の能力だと、それぐらいが返せる限度額だから…あいつもそれを見越して請求してんのかな?って…」
「本気で言ってんの、それ?だとしたら、私アンタのこと軽蔑するわ。例え闇金じゃなくとも、借金があるなら必死こいて金を作らなきゃおかしいでしょうか。食費や生活費は必要最低限にして、死なないギリギリのラインで働きづめて、作った金は全部返済に充てて、そのくらいしなきゃ今の状況から脱却なんかできないわよ。請求される額が少額だからって、それにあぐらかいて返済を少しでも遅らせるなんて真似、人生舐めてるって言われても文句言えないわよ」
「…」
「…いや、言いたいのはそこじゃなかったわ。
メルトアってやつの取り立て、あり得ないほど甘い。甘いというか、私の部下がやってたらクビにするレベル」
「――甘い?あれでか?」
「あのね、闇金の取り立て人って、闇金組織の中じゃ下っ端の類よ?そもそも違法な取り立てなんだから、組織的には切り捨てても問題ないヒトを充てがうわよ、普通。そんな奴に返済金額を決める裁量があるわけないじゃない。ロクな金が回収出来なかったら、罰せられるのは取り立て人の方よ。だから、連中血まなこになって金を巻き上げに来る。臓器払わせてでも金を作らせるわよ。そういう態度じゃなきゃおかしい」
「――」
「アンタもそろそろ理解できるはずだから、はっきり言うわよ。
アンタ、十中八九、借金なんか抱えてない。アンタが引っかかってんの、『借金取り』じゃなくて『詐欺師』」
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