「……………………………そっかあ」
ポポムが言っているのは、つまりこういうことだ。
本来は三億どころか百億近い額な上、今なお増え続ける(はずの)借金の返済には、一回五百万とか、そんな額では到底追いつくわけがない。下手をすれば一生分の時間がかかるわけで。
一生をかけられるのは借金取りの側も同じで、そんな悠長に待てる立場であるはずがなくて。
だったら、そもそも『闇金から借金してる』という前提事項がおかしいってことになる。
『借金取り』など存在しない。
何かの思惑で俺に近づき、巧みな話術でウソを信じ込ませ、せっせと金を貢がせるよう仕立て上げた『詐欺師』というのが、あのウェディの女の正体なのだ。
そしてそれは同時に、俺の二年間の努力が全くの徒労であったことの証明であった。
俺はその事実をゆっくり反芻し――机に突っ伏した。
そして、はあああああああああっと、極めて長い嘆息を漏らした。
そっかああああああああ~
騙されてたのか俺~
やばい、今の俺、恥の極みに達してる。死にてえって真剣に思ったの初めてかも。
突っ伏してる俺には目もくれず、ポポムは容赦なく続けた。
「もちろん裏取りは必要だけど、この件は詐欺であるという線で考えて間違いないと思う。
こうなると、連帯保証人だとかの要素はもう考えなくていいわね。単純に、騙した奴と騙された奴のいさかいってこと。
言っちゃなんだけど、しょーもなっ…」
「…悪い、しょうもないとかのワードは禁句でお願いします。勢い余って自殺する自信ある」
「あっそ。死にたいならご勝手に」
「~~~~ああ、もうっ。わかったよっ」
俺は無理やり上体を起こした。肩をすくめるポポムの姿が映った。
「で、メルトアのバックボーンの調査とか、『レンドア金融』とやらに闇金業者としての営業実態があるのかどうかとか、そういう裏取りはこっちでやっておくけど。
アンタ、次はどうしたい?貢いだ金を取り戻したいなら、詐欺としての証拠を集めて裁判を…というのは難しいか。アンタ自身が『裏クエスト』で逮捕スレスレのことをやってるから、裁判で争うことになったときにマイナスポイントとして攻められやすい。法律畑で面倒くさい争いになるのが嫌なら、裁判は勧められないわね」
「そうだな…ぶっちゃけ出るとこ出たところで、俺の方も叩けばホコリが出る立場だから、法律で裁かれて共倒れとかは嫌だわ…」
裁判の仕組みだとかはよく知らんけど、なんか弁護士に頼むとかで結局スッカラカンになりそうなイメージがある。事ここに至っては、最低限貢いだ金くらいは取り戻したい。
「弁護士を頼むとかだったら、例えばグランゼドーラ直轄領だったら無料で済んだりするけど…アンタの場合、『裏クエスト』をやってるってのが大きな減点なのよ。いざって時に法律で守れないんだから。法律で守ってほしいなら法律を犯さないこと。そこんところ、重々反省しなさいよ」
「…へい…」
「他の手だと、メルトアと直接対決して、まだ残ってる分のお金を返還するよう迫るってのもあるわよ。腕利きの部下が仲介役になって、その女との交渉の場を設けるって感じ。素直に返却すれば良し、交渉がこじれるようであれば腕づくで取り返す。これは正直、穏便に済むことは基本ないわ。向こうも裏世界のヒトなんだし、大抵こじれて大きな争いになるってパターンが多いけど、やるってんなら手を貸すわよ。代わりに、アンタにも相応の対価は払ってもらうけどね」
まあ、そこまでやっても、まともな額が残っているとは思わないけどね…と、ポポムは付け加えた。
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