「なんでこうも面倒な事態ばかり…いや、この酒場は私が選んだんだったわ…もう捕まったら言い逃れはしないことにしましょう…」
「いいよそれでもう…で、なんか見解はあるか?」
「うーん…よくわからないわね。手っ取り早く穴を空けるならバギ系か…ううん、それだと破裂音は発生しないし。なんかアンタが意識していないところで、呪文の発動条件を満たしているのかも。破裂音のしそうな呪文…あ」
ふっと、ポポムは何か思い付いたような顔をしたが、すぐに顔を曇らせた。
「なんだ、なんかわかったのか?」
「…いやいや、アレはさすがに一発で成功するような代物ではないし…仮にやれる奴なんていたら、それはもう『あの人』で確定なんじゃ…まさかねえ…」
「なんだよ、煮え切らないな。はっきり言ってくれよ」
「いいえ、なんでもない。忘れてちょうだい」
ポポムはひらひらと手を振って、話題を切ってしまった。釈然としないが、これ以上は追及しないでおこう。
ポポムが話を再開する。
「とりあえず、メルトアの実力の程は大体わかった。予想以上にやり手の魔法使いのようね。これはうちの部下に任せるのは難しいか…ああもう、これも私が出るしかないわね。ほんとに手がかかるわアンタ。色々リスケしなきゃいけないけど、準備と時間が確保できたら、私が直々に、アンタと一緒にメルトアに会いに行ってやるわよ」
イライラしながら、ポポムはそう言ってくれた。
「『首輪』については、こっちで解除する手立てを考えとく。ただ、一連の話を考えても、実力的に劣るアンタに、テレイオラのような危険な呪文を仕込む可能性はかなり低いと思う。現状、『首輪』はアンタを脅すためのウソと考えていいわ」
「…あいつは、なんのためにそんなウソを付いたんだ?」
手がかかりすぎている。自分で認めるのは業腹だが、俺をそこまで面倒な手順を踏んで騙すだけの価値は、正直ないと思う。
「さあ?メルトアがこんな回りくどい詐欺を仕掛けた動機がわからないから、今はなんとも言いようがないわね…有りうるとしたら、アンタ自身に対して、何かしらの執着があるのかもね」
「俺への執着?なんだよそれ?」
「知らないわよ。けど、二年間も付きまとうなんて結構な『熱量』よ。メルトアがアンタにこだわる『理由』があるとしたら、なんか個人的な事情なんじゃないの?惚れた腫れたとか」
「残念だけど、そういうのは生まれてこの方…」
「じゃ、もうわかんないわよ。直接対決してから本人に聞きなさいよ、そういうことは。どうせ膝を突き合わせて話(ナシ)付けることになんだから、その時確認しなさい」
「わかった。自信ないけど、わかったことにする」
「何、ビビってんの?段取りはこっちで組むから、そこは今心配しなくていいわよ」
「だったらいいんだけど、さ」
直接対決。まさか、こんなタイミングで、あの借金取りと対決することになろうとは。
急展開にも程がないだろうか?これっぽっちもあの女に勝てるビジョンが湧かない。
けど、ポポムにこうまで手助けされてしまっては、今さら引き下がるわけにはいかない。
そもそも、これは俺が撒いた種だ。本来、俺が一人でどうにかすべきところで、望外の援助が来ているのだ。
仮にここで何の助けもなかったとして、現状に甘んじていては、今後胸を張って生きられない。
だから、これからが踏ん張り時なのだ。
情けない過去を清算して、再スタートを切るための試練の扉が、目前に立っている。
だったら、後はそのドアノブに手を掛けるだけだ。
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/7169480/)