――〇月×日 土曜日 朝八時三十分。
ポポム警視長率いる世界警察の呪術王対策チームによる、呪術王捕縛作戦の現状は以下の通りである。
前提として、今俺たちがいる島――オールドレンドアの地下に、呪術王カワキのアジトがあることを、対策チームは一週間ほど前から把握していた。
以前から、オールドレンドアに広大な地下空間が存在することは知られていた。例の観光地計画の一環として、一般商店を公募して地下にショッピングモールを形成しようという構想があったのである。そして島の開発そのものがコけた後、例によって裏社会の皆さまが不法侵入して、思い思いの勝手な生活スペースが形成されたのである。
そして、その不法移民の面子の中に、いつの間にか呪術王カワキも加わっていた。呪術王は得意の魔術を使って地下街を自在に行き来しているため、正確な位置情報は不明。呪術王を捕縛するには、何らかの方法で現在位置を特定する必要がある。
ただし、地下街を一定範囲調査した結果、壁で囲まれて侵入できないスペースを発見している。他箇所では呪術王を発見できなかったため、この壁で囲まれているスペースに、呪術王のアジトが存在する可能性が高い――と、対策チームは睨んでいた。
であれば、このスペースの壁をこじ開けて、全軍で強行突入した上で、呪術王を探し回ればいいのではないか――と思ったのだが、そうもいかないらしい。
一週間の調査で、この地下街は一定の周期で『変形』していることがわかったのである。先ほどまで通路だった部分に壁が出現する、何もなかった通路に罠ないし魔物が出現する――という怪現象が頻発し、地下街のマッピングも遅々として進まなかった。十中八九、呪術王の仕業である。このような空間に大人数の部隊を突入させるのはリスクが大きい。
加えて、対策チームにはあるトラウマがあった。二年前、最初に呪術王に肉薄した作戦――オーグリードのギルザッド地方にアジトを構えていた『呪術王の一味』に対する突入作戦が、大きな被害を出したのである。
当時も世界警察及び有志の冒険者十数名を投入して、呪術王の身柄確保を目指して作戦が組まれたのだが…アジト内には、呪術王が作ったと思しき、魔物の大群が待ち構えていた。さらに、当時の『呪術王の一味』はマフィア然とした無法者の集団であり、武装した構成員とも戦闘になった。激しい戦闘の末、世界警察隊員及び冒険者に多数の死傷者が出た。このときの損失の責任を問われ、ポポムの前任の対策チーム長が辞任したのである。
後釜となったポポムの体制においても、『呪術王が待ち構えている閉鎖空間』への強行突入には慎重にならざるを得ないわけである。
以上の要件から、ポポムたち対策チームは以下のような作戦を考えた。
段取りとしては、まず呪術王のアジト(仮)を囲う壁に穴を開け、八名のチームメンバーが駐留する。呪術王の魔術により、壁が自動修復するなどの事態が発生した場合に備え、この駐留部隊が壁穴の維持に務める。
次に、駐留部隊とは別の八名(突入部隊)は、そのままアジト(仮)の中に入って、呪術王の捜索を行う。前回の突入作戦の状況から、呪術王本人以外に配下の魔物も相当数存在すると予想される。その規模が突入部隊だけでは対処できないと判断した場合、魔物たちの注意を引きつつ地上へ誘導する。そして、可能な限り多くの魔物を、地上に残留した対策チームメンバーが討伐する。
突入と魔物の誘導、そして地上での討伐。これを複数回繰り返すことで、呪術王の戦力を削り、最終的には呪術王本人を引きずり出す――というのが作戦の主旨である。つまり、『追い込み漁』ならぬ『追い出し漁』である。
で、この突入部隊に俺を参加させよう、というのがポポムの意向だった。当然ながら揉めた。
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