数瞬、緊張の糸が切れたかのようにぼうっとした。 疲れからか、考えがまとまらない。頭痛のする額を押さえながら、この後どうするかを考えた。
外は既に、どこかの軍団が陣取っている。『あれ』を使うのはこの場を脱出した後にしたい。地下からでも使える特別な旅の扉を起動するのは少々時間がかかる。であれば…今アジトにいる全ての魔物をぶつけて時間を稼ぐか。『突撃号令』と『集合号令』の魔道具はどこにしまっていたんだったか…
作戦を考える呪術王は、ふと、なんの反応も見せない女の方を見た。
息はある。最後まで何の情報も吐かなかった。ひょっとしたら、外の軍団の間者だったのかもしれないが、今となってはどうでもいい。もはや、顔を見るのも嫌だった。
殺そう。そう決断して、すぐさま魔物に合図を出した。
ズシ、ズシ、と、一体のバトルレックスが女に近づいた。うなだれる女は、さながら断頭台に繋がれた罪人のよう。
バトルレックスは何の逡巡もなく、その長大な斧を振り上げた。
***
――〇月×日 土曜日 朝十一時五十五分。
作戦開始時刻の直前。突入部隊及び遊撃隊の面々は、オールドレンドア島の中心部にいた。
中心部といっても、かつて観光地として設計された歓楽街の面影はない。だだっ広い円状の広場があるのみである。
待機所の目の前には、石材製の屋根が取り付けられた階段があった。地下の元歓楽街――呪術王のアジトと化した魔境へと繋がる入り口である。
呪術王対策チームの陣中は、じきに作戦が始まるという、ぴりついた空気に包まれていた。
「実際、お前、どういう立ち位置なんだ?」
そんな中、仮面バスターが俺に問いかけてきた。雑談のつもりだろうか。
この仮面バスターという人物、よくよく話してみたら、すぐに俺の知り合いだと判明した。彼は当時、顔を隠さなければならない極秘作戦に参加中だったので、俺のクチから詳しいことを話したりはしないが、わりとざっくばらんと話せる相手だということだけは言っておく。クチも固いので、こちらの秘密の事情もこのヒトになら話してもいいと判断した。
「概ね、ポポムが話した通りっすよ。呪術王に直に酷い目に遭わされたんで復讐したいってだけっす。ただ、俺に囮になるような価値はない。情報資産とか何とか、多分もうスられてます」
「マジかよ、最低だなポポムの野郎。部下だまくらかしてんのか」
後方の倉庫に陣取るポポムに、平然と影口を叩く仮面バスター。
「ヤバいっすよねやっぱり。だから、俺の集客力をアテにしてはいけません。花火で精一杯爆殺して頑張ります」
「そんな危ない自己PRは初めて聞いた。んー……まあ、突入部隊ど真ん中に放り込むよりはいいか。ポポムは前からそんなような所あったし、連中も承知してるだろ」
仮面バスターはなんてことないように言うが、俺は申し訳なさで萎縮しそうになる。ポポムのためにも、今回は失敗できないなと思った。
「遊撃隊なんて雑用だぜ、雑用。適当に暴れときゃ何とかなんだろ」
「自分、突入前で胃が荒れそうなんですけど」
「始まったらもっと荒れるぜ。水筒落とすなよ、もう当分補給する余裕ないからな」
俺はたまらず、うええ…という呻きを漏らす。仮面バスターは「泣き言言ってる場合じゃないぜ」とばかりに肩をすくめる。
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