魔法構築式に含まれるキーワードから、当召喚系魔法はなんらかの物体に関する召喚である(生物や幻魔・精霊ではない)と考えられる。
最終的な召喚対象は不明だが、既存の召喚系魔法(幻魔召喚など)と比べても、キーワードの繰り返し回数が大幅に多く、相当な大質量だと推測される。
(*報告資料に付いた付箋のメモ書き:
『大地』と『海』を連想するキーワード群。殺意を持って設計されたなら、アストルティアを押し潰す規模ではないか?)
5、設計された魔法構築式の実現性についての見解
設計された魔法構築式の実現性については、低いと考える。
前述した設計中の魔法構築式について、実行した場合の必要魔力量は約5000万ポイントである。これは平均的な魔法使い10万人分の魔力量であり、個人や一団体で調達するのは困難な分量である。
また、当数値は設計途中の構築式からの概算であり、設計完成後の必要魔力量は更に増加すると見られる。被疑者セイスケ・イヌイおよび所属組織が必要魔力量を調達できた可能性は低いと推測する。
ただし、上記魔力量を世界各国の魔力的パワースポットから調達した場合、理論上は最短2年、最長4年で調達可能である。
該当するパワースポットを占領され、魔法実行に用いられる危険性は考慮すべきである。
(資料『魔法構築式の解析結果』を参照)
<以上>
***
「――ティーザ先生、パワースポットじゃなかったみたいです」
ドルワーム王立研究院からの最終的な報告資料が世界警察に届いたのは、最初の依頼から実に二年後――つい一か月前のことだった。
その資料にあった『設計中の魔法構築式』こそ、二年前に逮捕した『虚ろの呪術王の一味』の実質的なリーダー・ベリルの尋問で発覚し、世界警察がかねてから警戒していた『世界を滅ぼす魔法』である。
そう断定し、改めて呪術王の捜索が強化されたわけだが、同時に謎が残った。
報告資料の結論が示す事実は、こうだ――『世界をすり潰す魔法を使うには、世界に匹敵する魔力を調達する必要がある。』
呪術王カワキの保有する魔力が、小規模なパワースポットに匹敵する規模である――ということはわかっていたが、だとしても『世界を滅ぼす魔法』を発動するには足りない。
ならば、他の手段で魔力を補給する必要がある。その手段とは、何か?
この一か月、ポポムの脳裏には、嫌な予想図がずっとこびりついていた。
――そして、捕縛作戦当日。〇月×日 土曜日 昼十三時半。
「まさかとは思ったけど。まさかまさかと思って、頭痛がするくらいうんざりしてたけど。
呪術王。やっぱ馬鹿だ、あいつ。よりにもよって一番『非効率』な調達手段を用意しやがった」
島の中央に出現したレンガ街を睨みながら呟いた。正確には、豪風荒れ狂う竜巻の『夢』を幻視させたその存在を、目を凝らして探した。
呪術王カワキの得意技、『魔物の生成』。
例えば、強力な魔物を生成して、体内に『世界を滅ぼす魔法』を組み込み、その発動に必要な魔力を集めるよう命じたとしたら?
そいつは、凶悪な魔物の本能をもって、世界中に散らばるヒトビトや魔物を余すところなく襲いつくし、貪欲にその魔力を吸収する『怪物』となる。
魔物である以上、ゴズ渓谷のようなパワースポットから魔力を吸い取るより、他の生き物を殺して魔力を取り込む方が効率が良くなる。
相手が生物なら、『怪物』と戦うか、逃げまどう相手も当然出てくる。『魔力が潤沢なパワースポットに留まって魔力を絞りつくす』という方法よりも非効率的なのは明らか。
呪術王は、『魔力を集める』という第一目標すらないがしろにして、世界に恐怖と打撃を与えることを選んだのである。
ポポムから見て、呪術王の狂気は、知を探求する賢者の端くれとして目を覆いたくなるほどの痴態だった。愛と嫉妬とは、こうまでヒトを狂わすものなのか。
失望を頭から追い出しながら、ポポムは前を向いた。
用心棒ジャックの失踪から数十分、砂浜に陣立てして、海から来る魔物たちを迎え撃った対策チーム。その魔物たちを一掃したちょうどそのとき、『夢』が見えたのだ。
百余名の兵たちをもって、来る『怪物』を討つには、どうするか?それを考えるフェーズが来た。
「――というか、ジャックの馬鹿は一体どこに行ったのよ…!?『怪物』と戦うような真似、絶対するんじゃないわよ…!!」
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