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――〇月×日 土曜日 昼十三時五十五分。
「…やっべえ…!!」
砂浜を並走する俺は、うごめく海の波間に目が釘付けになった。
水色や紫色などの色とりどりのウロコが、波間を整列して泳ぎ、こちらに迫っている。人魚の尾ひれに筋骨隆々の上半身、鋭い牙が並んだ顔面。どう見ても魔物。
マーマンというやつか。すげえ、初めて見た!!なんて感動もすぐにかき消えた。目視できる範囲でも数十体の群れ。それが、浜辺に向かって一直線に進撃してくる。
マーマンの軍勢の視線を追うと、背後のレンガ街に向かっていた。
俺は歯嚙みする。まさか、あの鐘の音に引き寄せられているのか?ちょっと前からしつこく響いている鐘の音を頼りにここまで走ってきたが、あんな魔物と戦っている暇なんてない。初めて見る魔物に勝てる保障はないし、戦いでもたついている間に呪術王を取り逃がすかもしれない。どうする…!?
「――ジャック!!無事だったのか!!」
ずざざざざと、俺を追って砂浜を走り抜ける音。振り返って見ると、そこには荒い息を上げて激走する仮面バスターの姿があった。
はぐれてからこっち、ずっと見失っていた上司の姿に安心した一方、悪い思考が芽生える。
遊撃隊隊長の仮面バスターが今になって姿を見せたということは、その目的はもちろん、呪術王の捕縛。恐らく、対策チーム本隊が『あのドラゴン』を相手にしている間に、呪術王を捕らえて本来の任務を達成しようという作戦だろう。
仮面バスターの実力であれば、呪術王に勝つのは容易だろう。きっと、俺の出番もなくなるくらいの楽勝。
――それは、まずい。今さら他人に獲物を譲る気はない。
というわけで、面倒を押し付けることにした。
俺は手早く小型の花火に火を付けると、海に投げ込んだ。ぼかああああん、と気持ちのいい発破音が打ちあがる。そしてその余波を受けて、海中の魔物の何体かもダメージを受けた。
うん?と、俺の予想外の行動に目が点になる仮面バスターへ向けて、俺は手短に言葉を伝えた。
「浜辺にマーマン種、数十!!この場は任せた、師匠!!大丈夫、呪術王は俺が仕留める!!」
「はあああ!!!?ちょっと待てお前…!!!」
返答を聞く前に、脱兎のごとく駆け出す。下手に命令を下されたら自由に動けなくなる。この状況で誰かの指揮下に入るのは避けたかった。
怒り狂う魔物たちを仮面バスターに押し付ける華麗な手口。ああ、後が怖い。絶対怒られが発生する。それでもこの胸の迸りは止められない。許せ、師匠!!
置き去りにされた仮面バスターの声が、後ろ髪に覆いかぶさる。
「…仕方ねえ、ここは請け負ってやる!!しくじったら承知しねえぞ、馬鹿弟子!!」
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