戦争は終わった。
世界警察のお偉方を青ざめさせた鬼才・呪術王カワキはめでたくお縄となり、世界を壊しかねない化け物も去った。世界有数の強豪たちも、それぞれの業務や冒険に戻っていく。
彼らにとっての大事件は既に幕を引いた。彼らに残っているのは、面倒な書類仕事や後処理だけだ。
戦場の高揚が潮の引くように消え失せた後、俺に残されているのもまた、とても面倒な事柄だけだった。
裏クエストに奔走し、ひたすら金を稼ぎ、挙句の果てに戦場に招聘されるまでに至った、俺のこの二年間とは、一体何だったのか?その疑問を紐解くときが来た。
即ち、ウェディの借金取り――と呼んだ誰か。その実は借金取りでもなんでもない、それどころか正体すらつかめない、顔のない女。
メルトアと呼ばれた何者かとの、直接対決である。
***
オールドレンドア島の戦場に参加した、その翌日。俺はレンドア島に来ていた。オールドが付かない方のレンドア島である。
市庁舎を中心に円環状に組まれた遊歩道を、のそのそと歩いていく。
レンドアの町並みは、普段と変わることなくにぎやかだ。つい昨日、あまりに濃密な戦闘を経験した後だと、その平和さが逆に非日常じみて感じる。その違和感も二、三日すれば治まるだろうが、今だけは落ち着かなさが頭に居座っている。
あんなレベルの戦争を日常的に繰り返していけば、いずれ戦場の方こそが生きる場所なのだ――とでも感じるようになるかもしれない。いわゆる『英雄』と呼ばれる連中は、そうやって自分を超人に改造していったヒトビトなのだと思う――今のところ、そこまで自分をいじめる気分には、到底なれなかった。
そんな益体のないことを考えながら、レンガ道を歩く。
レンドア島の南の港に停泊するグランドタイタス号を眺めながら、倉庫と倉庫の間に足を踏み入れる。
ヒト一人が歩けるだけの狭い道を、ぽくぽくと歩いていく。倉庫に挟まれてできた十字路を、何度も曲がる。
足を踏み入れたら最後、絶対生きて出られないような複雑な道順を、迷いなく進んでいく。
『明日一日いっぱい、レンドア島倉庫で待つ。そこでゆっくり話そう』
昨日、奴はそう言った。
レンドア島のどこだよ、あの島に何個倉庫があると思ってんだ――なんて疑問は湧かなかった。場所を指定していない以上、思い当たる場所は一つしかない。
二年前、借金漬けの生活に突入した、まさにあの日。俺とメルトアは、レンドア島の『倉庫』で会話をした。
テーブルが一基、椅子が二脚だけ置いてある、狭い部屋。そこで、メルトアは淡々と、俺から『借金三億ゴールドを取り立てる』――と言った。
「これから何日かに一度、金を取り立てに来る。稼ぎ方は任せるが、アタシの言う額は絶対に守ること。ビタ一文負けてやるつもりはない。死に物狂いで用意しろ」
「何ゴールドか、だって?一万二万で済むと思うなよ。三億取り立てようってんだから、でかい額なのは当たり前だ。一回当たりウン十万は覚悟しておけ」
「そうそう、間違っても逃げようなんて思うなよ。アンタに仕掛けた首輪――つうか、耳の魔法陣は、アタシの指示があれば爆発する。そうすりゃアンタの頭は粉々だ。
あと、衛兵どもにチクるのも禁止な――要するに、アタシに逆らうなら、その首輪爆発させるよ」
「ああそうだ、でかい金を稼ぎたいってんなら、ガタラのスラム街を尋ねろ。『裏クエスト屋』と言って、せこい仕事を斡旋してるオーガがいる。真っ当に働くよりは手っ取り早く稼げるだろう」
ほら、行った行ったと言って、メルトアは俺を倉庫から叩き出した。あまりに無体な扱いに反論することもできなかった俺は、仕方なくガタラ行きの箱舟に乗り込んだ。
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