「――『いらない』って言ったはずだけど、受け取らないと話をさせてもらえないだろうね」
女は少し不満そうに漏らしたが、俺の鬼のような形相を見て諦めたようだった。
「おう。この一週間、何のために気張ったと思ってる。俺は、一度受けた話は最後までやり遂げなきゃ気が済まない。そういう気質なことは、あんたもわかってるだろ」
「そうだね。クエストが成功しようと失敗しようと、決着がつくまでは、君はいつも最後まで関わり続けた。自ら選べる立場では、君は絶対逃げなかった。それは紛れもなく君の美徳だよ」
女は五つのずた袋を受け取ると、それらを空中にぽいっと投げた。袋は再び落ちてくる前に、空中でぱっと消えてしまった。
……異次元か何かに仕舞ったのだろうか……俺はもう、このヒトが何をしても驚かない自信が付いてしまった。
続いて、女は懐から何か小さい物体を取り出すと、俺に投げてよこした。金細工の豪奢なカギだった。
「ガタラ住宅村の××丁目、水没遺跡地区の×番地に、今まで君が稼いだゴールドを保管してある。それはその家のスペアキーだ。
今受け取った五百万ゴールドも、後でその家に預けておこう。時間があるときに回収しにいきなさい」
俺はこくりと頷くと、カギを道具袋にしまった。
俺が今まで借金取りに渡していた金――約一千万ゴールドの全額を返す、という話は既に聞いている。どうせ返されるなら、今五百万ゴールド渡したって意味がないだろう…なんて正論は聞かない。あくまでケジメの話だ。
これにて、俺のクエストは終わった。あとは、たまりにたまった疑問の答え合わせをこなしていくのみである。
女はすっと手を差し出し、俺に座るよう促した。俺は促されるまま、目の前にあるイスに座った。
それは長い話になるという、簡潔な合図でもあった。
「さて、どこから話したものか……などと勿体ぶっても仕方ないね。今日は特別だ。君が聞きたいこと、どんな質問にも噓偽りなく答えよう。
わたしがこの小屋にヒトを招くってこと自体、滅多にやることじゃない。心残りのないよう、どんどん聞いてほしい」
女はそのように言った。
俺が聞きたいことを、俺が聞きたい順序で、いくらでも答えてくれる、と、そのように言っている。俺に誠意を見せるつもりなのは本当らしい。
であれば、遠慮なくずけずけと聞いていく他ない。ここに来るまでに整理した疑問から、強烈な存在感を放つものを選び出した。
「――あんた、何者なんだ?」
「大したものではない。私はただ、つまらないものだ」
俺の渾身の質問にしらっと女は答えた。聞き飽きたという風も感じるくらいさらりと。
「――と、いつもならそんな風に答えるけどね。今回ばかりはちゃんと答えよう」
俺が睨み返すよりも早く、女は言葉を続けた。
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