「世界中に散る転生者を討つための情報収集を、わたし一人で行うのはどうやっても無理がある。世界中のあらゆる場所、あらゆる組織に、わたしの協力者がいるのさ。
情報提供はもちろん、いざってときはわたしと『入れ替わり』をして、その姿と仕事、権限を一時的に貸してくれる。そのお陰で、わたしは世界中の情報と、暗殺を行うための絶好のポジションを安定して得られるわけ」
「……成りすましを見破られたことは?」
「ない」
キリンは断言した。まあ、それも伝説の所以なのだろう――『千の影を渡り歩く』とは、そういう意味だったのか。
「作戦に参加した理由は、当然――呪術王カワキの暗殺のためだ。
その動機は、複雑な上につまらない話だから、かいつまんで話すと――わたしの雇い主である『王国』と、世界警察の思惑は対立してるんだ。
呪術王を捕縛して、あわよくばその技術を盗み取ろうという勢力が、世界警察のトップ層にいる。一方の『王国』は、呪術王を生かすリスクがメリットを上回っているから暗殺すべきだ、と主張している。この二勢力は微妙な権力関係にあってね――お互いの目的のすり合わせも、譲歩もできないという困った間柄なんだ。
その結果、『王国』からわたしにひとつの指令が下った。『世界警察の裏をかき、呪術王を抹殺せよ』、と。だから、わたしは作戦に参加していても、世界警察とは対立する関係にある。呪術王を暗殺するだけでなく、世界警察のメンバーをも出し抜かないといけない。全く、七面倒な話だよ」
やれやれ、と肩を落とすキリンを見て、俺はどうしようもない焦燥にかられる。
「……な、なあ、その話……俺が聞いても大丈夫な類の話なのか?すっごい機密情報が混じってる気がするんですが」
キリンは、ただニコッと笑った。
「知られると困る固有名詞は伏せてるけどね、吹聴はしない方がいい。裏社会の住人も震え上がるような怖いヒトが、君のところに来ないとも限らないからね」
ほらーっ!!やっぱ聞いちゃダメな話じゃーん!!なんて叫びたくなったところを、ぐっと堪えた。
キリンも嫌がらせだけで、機密情報を漏らしているわけではない…はずだ。恐らく、この後の説明をスムーズにするために必要なことなのだろう。であれば、アブナイ情報を聞く程度のリスクは甘受すべきだ。
……ただの嫌がらせだったらどうしよう……その時はしばくしかない。
どこまで話したんだったか…という前置きから、キリンは話を再開した。
「結果から言って、暗殺は失敗した。わたしがカワキと会う前に、大混乱に陥ったアジトから逃げられたんだ。そこからつい昨日まで、カワキとは接触することはできなかった。
カワキが去ったアジトに残ったのは、大量の魔物とヒトの死体と、カワキの実験被害者たちだけだった。その中の一人が、君だ。
正直、暗殺が失敗したことで、わたしと『王国』との関係は悪くなってね。早急に次の手を打つ必要がある。どうしたもんかと思案して、手元の君を見た。呪術王の被験体だった君を利用して、何かできないかと思った。というわけで、君を『攫った』。世界警察に引き渡さずにね」
「――――ッッ」
「おっと、こんなことで怒らないでくれよ。利用できるものは何でも利用する――という、基本的なことを言っているだけさ。君も裏社会に二年も身を置いてるなら、わかるだろ?」
どうどう、というキリンのジェスチャーで、身を乗り出しかけた俺は制止された。
怒らいでか、という言葉を飲み込む。キリンの話の通りなら、俺は本来、二年前の時点で世界警察に保護され、治療がうまくいけば日常生活に戻れたはずなのだ。それがキリンに捕まったことで、裏社会に身を置く結果となった。
ひどいマッチポンプだ――と思ったが、糾弾は後回しだ。今はとにかく、話の全貌を引き出さなければ。
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