キリンとの別れを経て、俺は今後の活動を考えた。
色々やらねばならないことはある。キリンから返却された貯金を確保しなくてはならない。キリンの口振りから察するに、掘っ立て小屋に現金(ナマ)で保管しているっぽい。
いや、流石に金庫に入れてるんだと思うんだけど、あんまり放っておいて泥棒に入られては目も当てられない。早急に取りに行きたいところだ。
貯金を確保したら、休暇を取ってちょっとくらい遊びにいきたい。ここ二年は働きづめだったから、ラッカランのカジノでパーッと遊んでも罰は当たるまい。
それから、表社会で仕事を探さないと。せっかく裏クエストと手を切ったんだから、もっと地に足のついた仕事をやりたい。
手先が器用とは言い難いので、生産系ギルドに入るのは保留だ。となると、やるならやっぱり傭兵か。それこそ、ポポムに頼んで就職先を紹介してもらうのも――
などと、好き勝手に予定を膨らませても、その妄想に没頭しきれない自分がいた。
心に小さなトゲが刺さっている。どうにかしてそのトゲを抜かないと、心置きなく新生活のスタートを切ることができなさそうだ。
キリンのやつ、極めて厄介な問題を残していきやがった――などと毒づくのはお門違いだ。
遅かれ早かれ、『その問題』を解決しなければならないのは明白だった。これはただ、さっさと一区切り付けて来い、とせかされただけの話だ。
気は重いが、先延ばしにしたところで余計億劫になるだけだ。ハァーッとため息を吐いた俺は、その足で箱舟の切符を買いに行った。
そういうわけで、俺は岳都ガタラの住宅村に向かった。
家出して以来、実に四年ぶりの帰省である。
***
――翌日。
黄土色の石造りの道路を通り、閑静な住宅村を歩く。
俺の実家は、ガタラ住宅村のとある区画、水没遺跡地区の片隅にひっそりと建っている。こじんまりとしたレンガの家である。七年前に、それまで住んでいたグレン城下町から岳都ガタラに引っ越す際に建ててから、一度も転居していなかった。
父はガタラのとある商会の幹部であるため、それなりに裕福な家庭であると思う。ガタラの中心街からも遠く、さして広くもない土地にわざわざ引っ越した理由を、俺は知らなかった。もっと幼い頃はそんなこと気にもしなかったし、引っ越しからほんの三年後に家出してしまったため、両親から聞きそびれてしまったのである。
四年ぶりの帰省――なんて書いたが、実家からほんの三、四区画だけ離れたところにマイホーム(地下室のみ)を構えているため、住宅村に続く道はむしろ見慣れた光景である。滅多に寄り付きこそしなかったとはいえ、懐かしさもへったくれもない。
家出しておいて、同じ住宅村に自宅を構えるのも我ながらどうかとは思ったのだが、当時はたまたま地価の安いところがガタラ住宅村にしかなかった。それに土地を買った当時は「なんとか隙を見て実家に出戻れないか」などと女々しいことを考えてしまい、ジュレット住宅村など遠方に拠点を置くのをためらったのもある。今となっては自分の未練がましさに呆れてしまう。
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